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《講演録》開発が未来をつくる!零細ミシンメーカー3代目が織り成す開発とブランディングの歩み

2025.01.17

2024年11月19日(火)開催
【若手後継者のための勉強会】開発が未来をつくる!零細ミシンメーカー3代目が織り成す開発とブランディングの歩み

講師
山﨑 一史氏(株式会社アックスヤマザキ 代表取締役社長)

今回の講師は、家庭用ミシンメーカーである株式会社アックスヤマザキ 代表取締役社長の山﨑 一史氏。縮小市場にあった家庭用ミシン市場において、高い商品企画力でヒット商品を次々と世に送り出している。主要取引先の廃業に伴い業績が悪化するなか、2005年に山﨑氏は家業へ戻り、販路拡大に向け奔走する一方で、新製品を開発する「大逆転戦略」を講じる。2015年、代表交代の年に発売した子ども向けミシンの大ヒットを皮切りに、さまざまなヒット商品を連発してきた。本セミナーでは、山﨑氏の体験をもとに「ブランディング」「開発」をテーマにお話しいただいた。

 

■ 劣等感をぬぐいきれないまま

大学生時代、高校で始めたアメフトをやめてしまった私は、打ち込むものを見つけられないまま、高校時代のチームメイトたちが全国大会の決勝で戦っているのをテレビで見ていました。キラキラ輝く彼らと自分との間には大きな差がついている。そんな劣等感をぬぐいきれないまま機械工具の会社に入社しました。

2005年のある日、家業であるミシン会社の2代目社長を務める父親から呼び出され、「実は会社がかなりピンチや」と打ち明けられました。それまで実家の会社は順調だろうと思い込んでいましたが、父の言葉に衝撃を受けて、家業に戻ることを決意しました。学生時代に落ちぶれた経験をし、その延長線上にいた私は、「絶対にやってやるぞ」という強い気持ちだけはありましたが、本当の意味での自信もその根拠もまったくありませんでした。

 

■ ミシンが苦手な大人が多い

家業の歴史を振り返ると、創業した祖父の代では大型ミシンの輸出を行っていました。商売は順調だったようですが、プラザ合意をきっかけに事業環境が大きく変化して債務超過に。会社がつぶれそうなときに父が入社し、ビジネスモデルを180度転換しました。その結果、国内でヒットが生まれ、会社は盛り返しました。

私が家業に戻ったとき、売上げは全盛期に比べて3分の1にまで落ちていて、当時はOEMが売上げの大半でした。そうした状況で私が取った行動は、営業に回ることでした。既存のお客さんを訪ねては、値段を下げたり付属品を付けたりと、小手先のことばかりで打開を試みていました。

同時に、打開策のヒントをつかもうと、ビジネススクールで経営を一から勉強することにしました。昔、ボクシングを習っていたときに「型を習う」ことの必要性を感じていたので、ビジネスにおいてもまず型を身に付けてアイデアを生かそうと思いました。結果として、それまで会社側の視点からミシンを考え売り込んでいたのを、「業界課題」から逆算して考えるようになりました。社会的に見た業界課題から具体的な解決方法を考えていったのです。

そうしたとき、「ミシンの苦手な大人が多い」ということがわかりました。友人や妻の知り合いなどにヒアリングしてみると「小学校でミシンを習ったけど、難しくて苦手になった」と。そうした話からさらに盛り上がって、「実はもう少しミシンをやってみたいと思っていた」という声さえ出てきたのです。

 

■ アックスヤマザキ大逆転戦略

そうして打ち立てたのが「アックスヤマザキ大逆転戦略」です。「なんとかミシンを売らねば」という我慢大会のような発想ではなく、「子ども向け市場を作って新しい市場創造と未来のユーザーを生み出す」ことを目標に掲げました。子どもも使えるミシンではなくて、「子どもが使う専用のミシン」。それぐらい割り切って考えようと決断しました。

ところが宣言から3年が経っても商品が完成しませんでした。私が会社に入ったころは新製品会議が月1回あり、技術者がアイデアを出していました。アイデア出しだけが毎月続いていたので、それではいけないと企画と開発を分け、私がヒアリングして企画したものを技術者に試作してもらうようにしました。

そして発案したのが「毛糸ミシンHug」。毛糸をかけるだけで簡単・安全に操作ができる子ども用ミシンです。同じころ、会社の社長に就任しました。その期は多額の赤字が見込まれていたことから、父からは「会社を縮小してくれ」と言われました。私はもう「とにかくやるしかない」と腹をくくり、社員には「1年後に黒字にできなかったら、僕は社長失格と思ってもらっていい」と告げました。

3年かけて「毛糸ミシンHug」の試作品を作り、大手玩具小売店に営業に出かけました。反響が大きく、業界トップからも注文を取り付けることができ、生産した2万台は2か月で完売しました。在庫はないのかと直接会社に来る人もいたほどでした。宣言通り翌年には黒字になり、V字回復することができました。

 

■ 「ミシンで役に立つ」から逆算する

2020年、コロナ禍でマスクが不足するという事態が起きました。マスクの作り方の動画をアップすれば、もしかしたら世の中のお役に立てるのではないかと考え、早速動画をアップしたところSNSでバズり、連日テレビや新聞にも取り上げられました。

それまで「ミシンはいらない」と言っていた人も買い求めてくださるようになり、「子育てにちょうどいいミシン」という商品は在庫が全部なくなり3か月待ちになるまでになったのです。この商品はキッズデザイン賞やグッドデザイン賞・金賞などを受賞し、大阪活力グランプリ2020では特別賞をいただきました。

 

■ 子ども向けから高齢者専用へ

こうしたノウハウを活かそうと、今度は高齢者に目を向けました。認知機能の低下に加え、コロナ禍で人と会えなくて元気がなくなっている人を、ミシンでなんとか元気づけたいと考えました。

ただ、高齢者、特に女性の場合は課題が違いました。ミシンが難しいというより、視力の低下が使いにくさにつながっていました。母の友人や身近な人に意見を聞いたり、デイサービスに通ったりしてアイデアを探し、開発を進めました。針の穴が見えにくい点は、ミシンをスイングさせたりルーペを付けたりすることで打開を探りました。また「脳トレ」というキーワードを入れ、専門家に協力してもらいました。この「孫につくる、わたしにやさしいミシン」という商品もありがたいことにヒットしました。

そしてさらに、男性向けのミシンも開発しました。それまで世のミシンは女性が使うものと偏った印象が持たれていました。しかし実際には、男性ユーザーからも「ブルーシートやレザーを縫いたい」という要望があったのです。ただ、それらは家庭用ミシンでは扱えないものだったので、ユーザーになっていただけなかったのです。けれども弊社の使命は、「ミシンを使わない人に使っていただく」だと思っています。キャンプやDIYが人気になる中で、ミシンが役立つ部分があるのではと逆算して制作したのが「TOKYO OTOKO ミシン」でした。

 

■ 「一家に一台」をめざして

今回のテーマでもある「ブランディング」について、結論から言えば、弊社の製品は「振り向いていただきたい方に向けて形にした」ものばかりであって、結果的にそれがブランディングになったというのが正しいでしょう。あらかじめブランディングの定義を決めて取り組んだわけではないのです。

「毛糸ミシンHug」にはアックスヤマザキのロゴを入れていません。会社をかっこよく見せたいというのは会社側の思いであって、使ってくださるユーザーにすれば関係のないことだからです。

また、「事業継承」という点について言えば、事業継承によって変わったのはむしろ「私の考え方」でした。継ぐ前は「お願いすること」が仕事だと思っていたので、判断軸が他人にありました。神頼みのようなことも多く、失敗を恐れて無難にこなそうとしていたように思います。

事業継承した現在は「優先順位をはっきりさせること」が重要だと断言できます。家業を継いだからには、2代目だとか3代目とかはどうでもいいことなのです。自分自身が一番のキーパーソンになるわけで、「自分らしくやる」ということが絶対に一番だと思うんです。そうしたメッセージは、社員や取引先にもきっちり伝えています。

そして「とにかく挑戦」すること。それにともなうすべての決断は、後悔のないようにすること。それぐらい思いきらないと、つい言い訳が出てきてしまいます。周りからは、市場が縮小して大変だという話がいろいろと聞こえてきます。しかし、市場が縮小しているということは、「やらない人が増えている」ということです。「市場にできた隙間を一個ずつ潰していったらいい」という気持ちで事業を行っています。

うちはあくまでもミシンの会社なので、ミシンを通じて社会的な課題を解決して世の中の役に立ちたい。それも使う人が「おもしろい」と思ってくれるものをつくりたい。そしてもう一度、「一家に一台」をめざしていきたいと思っています。

 

■ 質疑応答

商品をコンスタントに開発するには

ー 「毛糸ミシンHug」の開発・販売に3年かかっていますが、その後の商品はコンスタントに開発できています。その理由はどうしてでしょうか?また、販路はどう開拓していますか?

山﨑:1年に1製品を作り出すために、テーマを常に何個かストックしています。その中で一番面白そうなものを最前線でヒアリングして、試作品を作っています。開発には、ミシンが社会のお役に立つ、独自性がある、経済性があるという順番で考えています。そのうえで、向こうからほしいと言っていただける状況にすることを最優先にしています。その結果、値下げせず、卸を通さずにネットで売ることができて、利益率も上がると考えています。

ー 値付けの際のポイントについて教えてください。

山﨑:一つの目安として競合などは見ますが、自分たちが生み出した価値をいくらで買っていただけるかがポイントなので、ヒアリングして決めています。自分たちがちゃんと利益を出せるような値付けにするために、価値を上げることは考えますが、やはり一番はお客さんありきですね。

 

■ ~最後に~ 逆転の秘訣は「あきらめないこと」

私も皆さんと一緒で、「家業や業界をなんとかしたい」という思いだけでやってきました。逆算して話しているので割と簡単そうに聞こえると思うのですが、僕がやりたいと思ったことは、ノートに先に書き出していました。

自分で書いたことができていないのだとすれば、それはどこかで自分にうそをついているということでしょう。ノートに書いてスケジュールを逆算していけば、実現にどんどん近づいていきます。皆さんにもやりたいことをぜひ成し遂げていただいて、そのお話をぜひ聞かせていただきたいと思っています。

 
山﨑 一史(やまざき かずし)氏(株式会社アックスヤマザキ 代表取締役)
2002年、近畿大学商経学部商学科卒業後、機械工具卸企業に入社。2005年に父(当時、社長)から相談を受け、右肩下がりの状況を何とかすべく、1946年創業の家業である家庭用ミシンメーカー・株式会社アックスヤマザキに入社。2015年に赤字に陥った状況で3代目として代表取締役に就任。その後、新市場を開拓するため子ども向けに開発した「毛糸ミシンHug」がヒット。2016年ホビー産業大賞(経済産業大臣賞)、キッズデザイン賞受賞。第2弾として子育て世代に向けて開発した「子育てにちょうどいいミシン」もヒット。2020年にキッズデザイン賞優秀賞(少子化対策担当大臣賞)、グッドデザイン賞金賞(経済産業大臣賞)、JIDAデザインミュージアムセレクションvol.22と国内デザイン賞3冠受賞。企業として「大阪活力グランプリ2020特別賞」に選出される。「もう一度一家に一台」の実現に向けて1年1新製品を開発。

株式会社アックスヤマザキ

代表取締役社長

山﨑 一史氏

https://www.axeyamazaki.co.jp/