目薬容器の廃プラでつくるアイウェアでインド人の失明者を減らす
eyeforthree(アイフォースリー)は、目薬に使われるボトルの廃棄プラスチックをサングラスに再生し、販売収益の一部をインドの白内障治療に役立て、失明者を減らそうとしている。代表の長岡氏は、学生時代に訪れたインドで健康被害を目の当たりにした時のショックが事業の原動力になっており、「生まれにかかわりなく、すべての人が健康に暮らせる世界にしたい」と廃プラの用途をさらに広げようとしている。
目次
― 事業のきっかけとなった出来事
大学2年生の時にインドを訪ね、目や足に障がいがある方が多い状況に愕然とし、泣いてしまいました。現地のインド人青年に「なぜこの状況を目の当たりにして何もしないのか」と問うと「あなたも日本に帰ったら日常の生活に戻って忘れてしまうではないか」と言われ、「偽善」になってしまうことがいやで行動を起こすことにしました。
その後、感染症を引き起こすインドの劣悪な衛生環境を改善しようと、ホテルの使用済み石鹸をリサイクルするプロジェクトを思いつきました。休学してインドに滞在し、石鹸をスラムに配る活動をしましたが、継続することが難しくその一回で終わってしまいました。
― eyeforthreeを立ち上げた経緯
インドが抱える健康課題の解決に取り組みたいと考え、NGOやNPOへの就職も考えましたが、事業として持続的な取り組みにしたいと考え、インドでも事業を展開しているロート製薬株式会社に入社しました。
工場を見学する機会があった時、目薬のボトルが廃棄されていることを知りました。強固な密閉性が求められる目薬のボトルは不良品が出やすい一方、目は剝き出しの粘膜なので衛生的に再生材料を使うことはできず、それらのボトルは廃棄せざるを得ませんでした。
入社2年目の時に社内ベンチャー制度ができ、ボトルの廃プラを使って、社会課題を解決するビジネスを起こすチャンスだと考えました。インドには非常に多くの失明者がおり、その原因の6割が白内障で、検診や治療を受けられない環境にあります。
そこで、廃棄ボトルのプラスチックをアップサイクルしたサングラスを商品化し、その収益を白内障治療に活かす事業を考えました。フレーム部分には、ボトルを粉末に砕いて溶融した材料をそのまま100%使うことでさらにリサイクルしやすいようにしています。eyeforthreeという社名には、「あなたの目も、あの子の目も、地球も守るアイウェア」という思いを込めています。
― 製品化にあたっての苦労
サングラスのフレーム部分は通常アセテートなどが使われているのに対し、ボトルはPETでできており素材として使うには難しく、製造依頼をしたいくつかの工場に断られました。最終的に受け入れていただいた先でも、再生した樹脂が白く濁って脆くなってしまう状況が生じ、溶かした樹脂を成型するときの温度や流し込む速度、金型の形状などを工夫して解決しました。そして、2022年10月に、サングラスのフレーム部分に目薬ボトルのプラスチック材料を再生利用したサングラスを商品化しました。販売はアップサイクルの商品を扱うお店や自社サイトで行い、売上げの10%を、インドやその他諸国で貧困層の眼科健診や白内障の手術を行う企業に寄付しています。
インドで白内障を患った方は、白内障という病気そのものを知らない方が多くいらっしゃいます。まずは定期検査や健康診断を受けてもらい白内障を知ってもらうこと、さらに知ってからも手術が怖いという人に対してはその選択を後押しするためのカウンセリングが求められます。寄付先の企業はそのようなサポートまで行っています。
― 課題として感じていること
販売していて思うのは、環境への意識が高い国に比べ、日本では商品がエシカルであることだけではなかなか売れないということです。エシカルというだけではない、他の機能をしっかり知ってもらい、エシカルに関心が低い人や、興味はあるけれどエシカルが購入時の最優先事項ではないという人たちに買っていただけるよう、他の部分で価値を感じてもらう仕掛けが大切だと感じています。eyeforthreeのアイウェアは、PETが原料のため非常に軽く、日本人の顔に合うデザインにしているので、そこをしっかりアピールしていこうと考えています。
― 今後について
今回フレームに使ったボトルはアルガードという商品の茶色いボトルを使っているのですが、他にもさまざまな色のボトルがあるので、めがねケースやチェーンなどの付属品も商品化していくほか、廃ボトルの原料そのものを販売していくことも考えています。アップサイクルの商品を作っている人たちは、商品化や販売をするうえでさまざまなノウハウを蓄えているので、お互いに共有しながら、アップサイクル商品をみんなでさらに広げていけたらと思っています。
(取材・文/山口裕史 写真/三原李恵)