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「 ちゃんとごはん食べてる?」おかんの声が響く冷凍弁当

2024.04.05

1957年、大阪市阿倍野区で創業した株式会社大市珍味。かまぼこの製造・販売から事業をスタートし、1971年にはまだ珍しかったスモークサーモンの製造技術を確立。今では数百種類に及ぶ和洋オードブルやおせち料理などの業務用総菜を作っている。大阪・富田林、岡山に加え、タイ、ベトナムにも工場を展開。手作業の工程を多く残すことで小回りを利かせ、千差万別の顧客の要望に応えて商品数を増やし続けている。

多数あるメニューに共通するのは、「ハレの日を彩る料理」であること。大切な場を盛り上げるため、ほんの少しのミスも許されないプレッシャーのもと、美しく作り、盛り付ける技術を磨いてきた。

急速冷凍の技術が美味しさを保つ。

創業者の娘であり、4代目となる現社長の西野氏は、介護食をメインに手がけるグループ会社で20年以上販売に携わってきた。大市珍味の社長に就任してまもなく、コロナ禍を経験。ホテルや旅館、飲食店が主な顧客だった同社は苦境に立たされた。「売上げは激減しましたが、60年以上続く会社ならではの因習を打破し、原点に立ち返るよい機会にもなりました」。

製造現場にはレシピ管理を中心にDXを取り入れ、技術継承のため、若年者と熟練者がコンビを組むメンター制を採用。また、プロダクトアウト型の社風だったところ、自身の経験を活かし、顧客の声を聞くスタイルに。営業・開発・製造・品質管理など、職種を横断した企画開発チームを発足させた。

若手も活躍する製造現場。

そんな中で生まれたのが、“おせっかいおかんの思いが詰まった冷凍弁当「Studish(スタディッシュ)」”だ。初めての一人暮らしや単身赴任をする人に向け、管理栄養士監修のおかず3種類をセットに。電子レンジで温めるだけで好きな時に食べられる。おせち料理の製造工程で取り入れた最新鋭の冷凍技術をベースにした、中食への挑戦だ。

根底にあるのは、「食べることは生きること」という西野氏自身の信念。「体は自分が食べたものでできています。偏った食生活では変調をきたすし、逆に整えることもできる。若い人たちに、そのことに気づいてほしいと思っています」。

実は以前も、同じコンセプトで企画したことがあるが、うまくいかなかった。コロナ禍で想定以上に過熱した冷凍弁当の市場を研究。職人が美しく盛り付けた中身を見せつつ、家庭の冷凍庫内でスリムに収納できる容器や、管理栄養士監修であることを前面に打ち出し、リニューアルを図った。「あんた、ちゃんとごはん食べてる?」。そんな西野氏の優しくも強い声が聞こえてくる。

代表取締役社長 西野 美穂氏

(取材・文/衛藤真奈実)

株式会社大市珍味

代表取締役社長

西野 美穂氏

https://daiichinmi.co.jp

事業内容/冷凍・冷蔵総菜及び水産加工品の製造・販売