マスティ合同会社が描く、本場アッサム茶と5つのスパイスが織りなす至極のチャイ体験
インド人にとって最も身近な飲料であるチャイ。テジャス氏が子どものころは「朝、家族におはようを言った後、当たり前のように飲んでいたくらい日常に溶け込んでいた」という。大手コーヒーチェーンが定番メニューに加えるようになってから、日本でも知名度が上がり、街のカフェでもメニューに見かけるようになった。茶葉とスパイスを牛乳と水で煮出し、砂糖を入れてつくるが、多くの店ではチャイ風味のシロップとミルクを混ぜて提供するケースが多く、テジャス氏は常々「本格的なチャイが外でも飲めるようになったらいいのに」と考えていた。
4歳で来日して以来日本で暮らし、大学卒業後は石油プラント会社でエンジニアとして働いたが、「いつかはスモールビジネスを自分で起こしたい」という目標を実現するため34歳で退職。チャイに対する強い思いから、これをテーマに起業することは自然な流れだったという。「当初はカフェを開いて提供することも考えましたが、より多くの人に飲んでもらうために濃縮液を開発しようと決めました」。Amazon で調べても 同様の商品はほとんどなく、ブルーオーシャンだった。
「原材料がシンプルなだけに茶葉とスパイスの質がおいしさの決め手になる」と、インドの親戚を頼りアッサム地方の農園から高級茶葉を直接仕入れ、5種のスパイスを混ぜることで味に深みを出した。製造は外部への委託を考えていたが、チャイをつくるための適切な設備がなく断念。飲料製造許可を取って大阪市内で製造設備をしつらえた。煮出しからびん詰めまですべてテジャス氏が一人で手掛ける。賞味期限のテストを経て「マスティチャイ」として商品化できたのは2021年6月のことだ。
個人客向けを想定しアマゾンでの販売に着手する一方で、Instagramを活用し、営業でカフェを地道に回っていたところ、大阪で人気のカフェでの採用が決まった。「味をちゃんと認めて買ってくれる人がいる」ことに胸をなでおろすとともに、それが大きな自信になった。現在では約85店のカフェに卸しているほか、最近では高級食品ストアへの導入も進んでいる。
ビジネスが広がってきた今、自社で設備を拡充するか、あらためて外部に生産を委託するか考えている。いずれは国内だけでなく世界で販売し、抹茶も商品ラインナップに加えたいという目標も掲げる。マスティはヒンディ語で「楽しむ」を意味する。「マスティチャイを飲みながら楽しむ人を世界中に増やしたい」と優しい笑顔で語る。
(取材・文/山口裕史)