自らの思い、形にできるモノづくりの喜びを大切に
ものづくりと向き合う若手職人に光を当てた「ゲンバ男子」の連載がスタートして今年でちょうど10年を迎えた。ゲンバ男子に登場いただいた2社の社長に、この10年間のものづくりを取り巻く環境変化にどう立ち向かい、ものづくりの魅力を伝え続けてきたのか、お互いの思いをぶつけてもらった。
◉それぞれの事業の特長を教えてください。
浦竹:自動車のウレタンシートを発泡させるための金型を製造しています。CADを使った設計から鋳造、マシニング(切削)、レーザー切断、溶接までを社内で一貫生産しています。3Dプリンターも含め、多種多様な機械を持つ強みを生かして自社製品も製造しており、直近では1台で蒸し、焼きなど4役ができるバーベキュー用のグリルプレートを商品化しました。
島本:ホームセンターにDIY用のアルミフレームを納めています。また、お客さまのニーズをもとにアルミフレームを加工して、物流ボックス、簡易クリーンルーム、軒先融雪器、ペットゲージなどを製造しています。アルミを使って世の中にないものを生み出しているアルミフレームメーカーです。
◉「ゲンバ男子」の取材を受けての変化はありましたか。
浦竹:2回取材してもらいました。2013年の1回目は、ナイジェリア人の職人に出てもらい、社内のモチベーションがめっちゃ上がりましたね。2回目は今年、ベトナム人の鋳造部門長に出てもらったところ、国のお母さんたちがすごく喜んでくれました。
島本:外国人と違って、日本人の職人は恥ずかしがり屋が多いんです。「ゲンバ男子」に載ることで、自分にも胸を張れるところがあるんやと自信が持てるきっかけになったようです。もともと現場の職人に光を当てたいと考えていたので良い機会になりました。
◉この10年間でものづくりを取り巻く環境はどう変化しましたか。
浦竹:デジタル化が進み生産管理の自動化が進展した一方で、「背中を見て覚えろ」の世界は通用しなくなり、マニュアルの整備を進めました。積極的に工場の中を外部の方に見てもらえるようにしたところ、手作業の世界に興味を持ってもらう機会が増えました。ただ、以前のようにハローワークに情報を出すだけでは採用が難しくなってしまいました。
島本:ものづくりの世界では、生産性向上、ファブレス化などの取り組みが進みましたが、うちは一品モノを愚直につくり続けました。コロナ禍でパーテーションの受注が増え、業績が上がり、大手メーカーから依頼も入るようになり、額に汗するアナログの一品づくりにも生かされる道があるのではと自信をつけているところです。
◉人手不足の課題にどう立ち向かっていますか。
浦竹:6年ほど前、日本人の採用をあきらめ、ベトナム人のエンジニアを2人採用しました。最初に入社したベトナム人の結婚式に出席するため現地に出向き、そこで一緒に飲んだ2人も入社してくれました。ただ、このままではベトナム人ばかりになると思い直し、今年から日本人の採用にもう一度チャレンジし、インターンを始めたところです。
島本:6年ほど前に「新卒応援ハローワーク」を活用し2人の女性が入社してくれました。会社説明会では、まっすぐに学生の目を見て、「一品モノにこだわって他社にないものを自分で考えてつくれる」ということだけ伝えています。100人に1人かもしれませんが、その思いに共感して来てくれる人は長続きします。残業がない、有給休暇が取りやすいという言葉に釣られるような学生は求めていません。
◉若い人材をどのように定着させていますか。
浦竹:外部の人を呼んで工場を見てもらう機会を設けています。その際あらかじめ、各職人がどのような技能を持っているのかを説明してから見学してもらうのですが、それぞれの現場で見学客が感嘆の声をあげながらいろいろなことを現場の職人に聞いてくれます。それが誇りにつながっています。先ほど話した学生向けのインターンの内容は若い現場の社員に考えてもらいました。3Dプリンターでモデル作成しアルミ鋳造で作った鯛焼きの金型づくりを企画してくれ、非常に好評でした。
島本:あるときから私が口出しするのをやめたところ、私が考えるよりいいものができあがることに気づきました。数年前から商品の企画も社員からアイデアを募っています。ある社員が「農業をやりたい」というので工場の花壇にトマトとキュウリを植えました。そうすることで農業の話題にアンテナが立ちます。北海道で開かれている国際農業展をのぞいたところ想像以上にドローンの活用が進んでいることがわかり、ドローンの格納庫を作るアイデアが出てきました。社員に任せ、社員を輝かせる場をつくることが大事だと思います。
◉ものづくりに興味を持つ若い世代にメッセージを。
浦竹:自分のやりたいことを実現するのがたまたま会社であって、やりたいことが利益につながってそれが給料にもなるんだという発想を持つことができれば、ものづくりに向かうことが楽しくなっていくと思います。
島本:自分はこれをやりたいという思いを持ってほしい。それが少しずつでもかなえば小さな自信が誇りに変わっていきます。そして、そういう信念を持つ人が増えていけば、おのずとものづくりの世界は変わっていくと信じています。
◉これからの目標を教えて下さい。
浦竹:個人で3Dプリンターを持ってモノづくりをするような人がその過程でどうしても足りない工程をサポートしたり、「こんなんつくりたいんやけど、どうしたらええんやろ」というときに頼られる工房のような会社をめざしています。
島本:ものづくりは、こんなものをつくりたいという思いから始まります。“製造元”“販売元”に加えて新たに“発想元”という言葉を当社から発信したいと考えています。エーディエフに聞けばなんか発想してくれるんちゃうかと思ってもらえるレベルの会社にしたいですね。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)