株式会社SIRCが提案!製造ライン別電力量計測、工場の脱炭素戦略を進化
脱炭素社会の実現に向け、製造業者は工場における省エネの取り組みがさらに求められている。ただ、工場全体の電力使用量については把握できても、どの製造ラインでどれだけ電力を消費しているのかまでを把握する術はなく、効果的な省エネ戦略が立てられないのが実態だ。これを解決する手法として注目されているのが、産業機器に取り付けて電力を測定できる「IoT電力センサユニット」だ。
測定時には、5㎜角のSIRCデバイスチップが搭載されたクリップ状のセンサヘッドを、被膜付き電線を挟むように取り付けるだけ。センサヘッド内部にはセンサが組み込まれており、磁界の抵抗から電流を読み取るほか、電線から発する微弱な交流電圧も非接触で測定することができる。「電力量は、電圧×電流に、供給された電力のうち何%が有効に働いたかを示す力率を掛け合わせて算出されるのですが、この力率の変化込みで、精緻な電力量を演算して測定できることも大きな特長です」と前島氏。
従来は工場のキュービクル(高圧受電設備)に設置した積算電力量計を通じて総電力量を把握するしかなかったが、同システムはキュービクルから分電された製造ライン、さらには末端の産業機器ごとに電気工事不要の後付けで取り付けることができ、電力を1分で可視化できる。
1970年代に大阪公立大学名誉教授の辻本浩章氏が磁性薄膜を活用した光磁気記録の実用化を行った技術をベースに、2015年、大阪市立大学発ベンチャーとしてSIRCは設立された。以来、さまざまなセンサモジュール・センサユニットやソリューションを開発してきたが、「脱炭素化の取り組みが活発になった流れを受け、今回の商品開発にこぎつけた」という。
デバイスの活用により製造ライン、産業機器ごとの電力消費量が把握できるため、CO₂排出量削減の計画策定が容易になる。「例えば、3つの機器のうち最も消費電力量の多い機器の消費量を時系列で追ったところ、実は待機電力が多くを占めているという実態がわかった事例もあります」と出口氏。特に自動車業界などでは、部品ごとの使用電力量を算出するカーボンフットプリントの取り組みに注力しており、それらの部品を製造するさまざまな機器に簡易に取り付けられるデバイスの強みが発揮できそうだ。
この電力センサのデータをクラウドサーバ経由で収集、分析するデータサービスも提供している。「データを積み重ねながらAIの活用により、機器の使いすぎや異常を瞬時に判断できるようになります。ゆくゆくはどんな機器に更新すればよいかといった提案にもつなげたい」と話す。
(取材・文/山口裕史)