がん患者がワクワクする撮影プランを提供
写真を撮影するプロセスを通じてがん患者が笑顔になり、前向きな気持ちになれるようにとの思いを込め「キャンサーフォトプラン」を柱に写真スタジオを運営する西尾氏。
がん専門病院で広報を担当していた際、がんと立ち向かう患者、医療従事者の熱い思いに触れた。かねてよりカメラマン志望だった西尾氏はフォトスタジオで働き撮影技術を磨く傍ら「AYA世代(15歳~30歳代)のがん患者無料振袖撮影会」を開催。「昨日、余命宣告を受けた」という白血病の男性は、見るからに元気のない状態だったが、撮影会が終わった後、「また必ず来るから!僕負けへんから!」と生きたい!という気持ちを伝えてくれた。その夢は叶わなかったが、西尾氏が撮影した写真を生前に自分の遺影として選んでいたという。
起業はまだまだ先だと考えていた西尾氏だったが、写真の力を感じて独立を決意し2021年末に退社。この6月にスタジオを立ち上げた。申し込みから撮影まで密に連絡を取り「ワクワクしながら当日を迎え、最高に楽しめる1日にする」ことを心がけている。
今後は、写真撮影ががん患者に及ぼす効果を検証するとともに、がんや医療の知識を備え、撮影もできる「キャンサーフォトセラピスト」を育成するための協会設立を考えている。そしていつかは病院に併設したスタジオを設けることが目標だ。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)
◎創業:2022年6月
◎準備期間:2年半
◎開業資金:自己資金140万円、借入金400万円
自己資金が不足していたため心配していたが、起業前の購入済み機材へ投じた資金などを自己資金として考慮してもらえるなど融資のアドバイスをもらい、日本政策金融公庫から「一緒に頑張りましょう」と声をかけてもらえた。
◎スタジオの初期費用と改装費:140万円
当初はマンションの一室も考えたが、不特定多数の人が出入りする事務所は嫌われることから、オフィスビルの一室を借りた。
◎家賃:月9万円
駅から徒歩10分以内、車イスのまま出入りできるなどの条件で探した。
― 起業年表(起業ストーリー)―
◎2016年11月
大阪国際がんセンターで広報の仕事に就き、がんにまつわるさまざまな情報に触れる機会を得た。
◎2019年11月
呉服屋に併設されたフォトスタジオに転職し、カメラマンとしての技術を磨く。
◎2021年6月
大阪国際がんセンターの医師からの呼びかけで「AYA世代(15歳~30歳代)のがん患者無料撮影会」を開催。起業のきっかけになる。
◎2021年12月
フォトスタジオを退職。その後カメラマンのアルバイト採用に応募しながら起業に向けた情報を収集し、2022年1月から大阪産業創造館での起業相談開始。
◎2022年5月
患者の受け入れのための環境、収支計画に見合ったスタジオを探すことに難航。大阪産業創造館の窓口で起業相談をしながら、別の不動産業者にも声をかけたところ、急きょ事務所が見つかり起業に踏み切る。
― 働きながら起業準備してみて ―
◎良かった点
がん患者に関わる仕事をしたいという明確な目標があったため、働きながらがん患者の動画作成やイベントを開催し、思いを温める時間ができた。
◎苦労した点
働きながらの場合、どこかで決断しないとずるずると起業が遅れることになる。
◎気を付けるべき点
起業の準備は早いに越したことはない。事業プランのシミュレーションを早めにしておいたほうがもっとスタートダッシュができたと今では思っている。
― <起業・独立>ココがポイント ―
西尾さんは、写真スタジオでのスキル習得など数年前から起業準備をされていました。経営相談室の利用は、仕事をしながらだったので平日に休みをとって来館され、専門家も交えてビジネスモデルと収支計画を何回も練り直しました。時間はかかりましたが、その結果、起業後スムーズに軌道に乗せることができました。社会的意義の高い事業を無償の奉仕活動に終わらせず、継続的なサービスの提供のために収益化できた好事例だと思います。
(大阪産業創造館 スタッフコンサルタント 大西 森)
【 経営相談室 】https://www.sansokan.jp/akinai