事業承継

《講演録》縮小市場でどう戦う?零細ミシンメーカーが選んだ生きる道【後編】

2021.11.15

◉周囲の意見を取り入れ、表情までもつぶさに観察した

山崎(大):子ども向けミシンの発想のきっかけは何だったんですか。

山﨑(一):このままではいけないと、客観的に当社を見つめなおすためにビジネススクールに入りました。ビジネススクールでのカリキュラムの一環として、ミシン業界の課題や、あるいはもっと広く社会の課題について考える機会があり、その中で生まれたのが「大逆転戦略」です。周囲の人にプレゼンしてみてはフィードバックやアドバイスをもらい、同時にその人の表情やリアクションを見ながら本気度をつかんでいました。

たとえば、友人が「ママ友が家に遊びに来るときうちの奥さんはミシンを隠している、生活感が出るから」という話をしてくれたことがありました。その時の友人の顔は今でも印象に残っています。だったら見せたくなるようなミシンを作ろう、と決心して生まれたのが子育て世代向けミシンなんです。コロナ禍での手作りマスクニーズもあり、大好評をいただきました。

山崎(大):自らをあえて外部環境に置いてみただけでなく、どういう製品なら欲しいと思ってもらえるのか、なんで欲しくないと思うのか、というターゲットユーザーが抱える一次情報を自分の中にストックされていったんですね。ほとんどの人は、縮小市場だという二次情報だけをみて思考停止に陥りがちなものです。

山﨑(一):それこそ、ビジネススクールでのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析では「負け犬」だから撤退、で終わってしまう業界でしたからね。コンセプトを明確にして、ターゲットを絞って商品名もわかりやすくして、伝えることをとにかく意識しました。子供向けミシンは「簡単・安全」、子育て世代向けミシンの場合には、「難しい・面倒くさい・邪魔の正反対」をめざし、雑誌「VERY」に掲載されるレベルのものを作ろうというコンセプトを打ち立てました。

 
◉自ら販路開拓、プレスリリースも自分で書いた

山崎(大):まさに引き算の美学ですね。子ども向けミシンの販路はどのように開拓されたんですか。

山﨑(一):自分で開拓しました。ミシンメーカーが玩具を出すなんて誰も思っていなかったですからね。玩具業界の常識や商売のノウハウなんて全くわかりませんでした。知り合いのツテでトイザらスさんを紹介してもらって商談にこぎつけ、仮受注を獲得したんです。それを武器に業界1位の玩具問屋さんに売り込みました。

プレスリリースも自分で書きました。プレスリリースの書き方の本を買いあさって、とにかく原稿を書いてみて、それを読み直した時に自分がワクワクできるかどうかを重視しました。そうやって書いたリリースの内容がメディアに取り上げられ、さらにそれが別のメディアのトップ記事に出たり、取材を受けたりするきっかけとなりました。

山崎(大):普通ならPR会社に外注しちゃうところですね。まず自分でやってみるという姿勢はとても共感できます。専門外であってもポイントを自分で把握しておくことは重要ですね。

山﨑(一):何もわからない状態のまま外注すると、主導権が自分から離れていってしまいます。今では外部のプロと協力してPRなどは行っていますが、判断軸は常に自分でもっておきたいと考えています。

株式会社アックスヤマザキ

代表取締役

山﨑 一史氏

https://www.axeyamazaki.co.jp/

事業内容/縫製機械等の製造販売