昔ながらの和晒を今の暮らしに合うロールタイプに
100年以上の歴史をもつ株式会社武田晒工場は、堺の毛穴地域にある晒(さらし)産業を継承しながら、2020年に新ブランド「さささ和晒ロール」を立ち上げた。これまで折り畳んで販売されていた和晒をキッチンペーパーのようなロール状にし、ミシン目から切って使う新しいスタイルを提案。さっと切り取り、水を絞る、出汁をこす、野菜を蒸すなど、何役も活躍する。使い捨てではなく、洗えば繰り返し使え、最後は雑巾として掃除にも活用できる。こうした和晒を現代の暮らしに合う形にデザインしたことが評価され、2020年度グッドデザイン賞を受賞した。
そもそも和晒とは、手ぬぐいや浴衣になる綿織物を染める前段階で、織る際に使われる糊を落とすための精錬・漂白する工程のこと。同社では水・薬品・エネルギーの使用を最小限に抑えた加工釜を開発し、独自の加工法を確立。環境に配慮したものづくりを早くから手がけてきた。
一方で、和晒の需要が減少する中で、自社製品の開発に着手。ふんわりとした風合いと肌にやさしい特性を活かし、和晒が布おしめに使われていたことをヒントにベビー肌着「天使のころも」を販売したが、初めての接客に苦戦したという。「展示会で『和晒って何?』と尋ねられるたびにお客さまに説明するのが難しくて。3年ほどもがきましたが、まずは和晒自体を知ってもらう商品を作ろうと考えました」と専務の武田氏は振り返る。
そんな中、ブランディングの勉強会に参加し、講師の考えに共感。プロデュースを依頼することになった。「何度も話し合いを重ね、付加価値を付けるのではなく、無駄をそぎ落として今風の手に取りやすい形を追求しました。和晒の使い方がわからない人のためにロール状で簡単に切り取れる仕様にしたら、台所用品としてイメージしやすくなったようです」。さらに、簡単に切れるのにロール状でもしっかりとした強度を保てるよう試行錯誤し、使いやすいスタンドや壁に付けるホルダーも開発した。
ファクトリーブランドが多数参加する展示会に出展したところ、「ていねいな暮らし」を大切にする人やサステナブルな商品を求める層のニーズと合致し、「お客さまからは『発売を楽しみにしていた』との声が寄せられました」。リピート購入も増加し、こうした声に応え、ギフト用のカット済みの5枚組やストッカーなども発売。また、和晒のコーヒーフィルターも近々発売予定だ。
今後も和晒の認知を広げ、業界のために尽力したいと考えている。「最盛期には40~50社あった和晒や染屋の工場も、現在堺市には7社のみ。それでも、どの会社にも私と同世代の経営者がいて仲も良いので、協力して産地を盛り上げていきたい」と力強く語ってくれた。

専務取締役 武田 真一氏
(取材・文/三枝ゆり 写真/福永浩二)