刃物を強くする表面改質技術
よく切れて、しかも今までのものより2~3倍長持ちする」と調理士が実感を込めて語る。AMC(エーエムシー)が独自の製法で生み出す包丁は、硬くて切れ味が鋭く、なおかつ欠けにくい。
一般的に、プロ用の包丁は鉄に炭素が含まれた「炭素鋼」を素材とするが、硬さや切れ味を求めるほど、錆びるという難点があった。一方、「ステンレス鋼」の刃物素材はクロムの炭化物粒子が大粒のために取れてしまうことで刃先が欠けたり、突き出た大粒部分が非常に硬いため研ぎづらさに直結していたのだ。
同社代表の水野氏は、15年ほど前から鋼の結晶を細かくする研究を重ねてきた。目を付けたのが、航空機や自動車の製造現場で用いられた「摩擦攪拌」だ。
丸い工具を回転させ、押し付けた時の摩擦熱によって素材を軟化させる技術だ。主な用途は4~500度で軟らかくなるアルミなど、軽金属同士の接合。目的の鉄に応用するには約1000度の熱が必要だった。
水野氏は大阪大学との「共同研究で工具から見直し、すべての粒子が50~200ナノメートルという極小サイズになるまでの微細化に成功。粒が細かいことで、0.07mmという顕微鏡下で使える薄さの刃物も実現できるようになった。
刃先だけを加工して製品とするため、仏師や家具職人から、切り絵作家向けの彫刻刀やカッター、業務用の刃物まで多方面で実績がある同社。今後は医療・研究など広い分野への活用と、一般向けにも包丁を展開できるようコストダウンにも取り組みたいという。
▲刃先だけを加工して出荷(手前)、製品化は他社にゆだねるため、幅広い分野の刃物に対応することができる。
▲鋼に含まれる炭化物や金属の結晶粒をナノサイズまで極小化。
古来よりある、ハンマーで叩く鍛造の技術を機械化。結果、切れ味と欠けにくさを両立した包丁に。
▲代表取締役 水野 雅氏
(取材・文/衛藤真奈実)