大阪地ビールが障がい者と社会をつなぐ

 
日雇い労働者のまち、あいりん地区を抱える西成区。

定職を持たない人だけでなく、心身に障がいを持った人、身寄りのない高齢者などが多く暮らし、2019年3月時点の生活保護受給者数は区民の約4人に1人にあたる2万5387人を数える。

 
その西成区で介護・医療事業を展開する山﨑氏がサービスで大切にしているのは利用者が困っていることならなんでも親身に関わること。「ヤミ金の取り立てに追われていれば弁護士を立て、保証人を求められる家探しに協力することもあります」。

前職で勤務していた介護会社がつぶれ、「孫のようにかわいがってもらっていた」利用者から「山﨑君のところでサービスを受けたい」と請われ独立した経緯もうなずける。

 

代表取締役 山﨑 昌宣氏

 
日々相手にするのは生活保護を受けながらも屈せず、こびへつらうことなく生きる人たち。

彼らとひざ詰めで話ができる間柄だからこそ踏み込んだ福祉を実現したいと考え、警察や医療機関と協議を重ねながら、独居者を在宅で看取る体制も整えた。

障がい者に対する就労支援もまたしかり。ただ、やらされていると感じられるような単調な仕事では彼らのやる気を促すのは難しい。

 

代表 山崎氏(左)とヘッドブルワー 伊藤氏(右)

 
あるとき酒の場で「わしら酒が好きやねんから、そんな仕事を用意せえや」と上から目線でからまれた。腹立ちまぎれに「それならやったるわ」と返した山﨑氏。さっそくビアバーを雇用の場としてしつらえた。

外部に醸造を委託して試しに800本を彼らに販売してもらったところ、なじみの酒屋に押し込んであっという間に売り切った。

手ごたえを得た山崎氏は自前の醸造所をつくる。

初めての自社ブランド商品は「西成ライオットエール」。かつて労働者の暴動(ライオット)があった負の歴史を逆手に取り、労働者の街の「気概」を込めた。

「新世界ニューロマンサー」は大阪名物ミックスジュースをイメージした商品だ。今やこの2ブランドがヒット商品に育ち、西成地区だけでなく全国に取り扱い先が広がっている。

 

 
現在は、仕込みから配送まで約80人の障がい者が醸造所、ビアバーで仕事に従事する。「自分で働いて飲む酒はうまい」。そんな言葉が彼らの口から出るようになった。

中には生活保護を受給せずに済むようになった人や、一般企業への就職につながった人もいる。「自分が社会の一員になっているという参加意識を促すことが大事」と山﨑氏。

 
秋にはBリーグ「大阪エヴェッサ」へオリジナルビールの供給が始まり、来年からは某Jリーグチームとのコラボレーションも決まった。

12月に第2製造所が完成すると製造能力は現在の10倍以上に膨らみ、新たに50人の雇用が生まれる。

障がい者、労働者の尊厳を刺激しながら自立へ導く挑戦が続く。

 

 
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

2020年10月12日
株式会社シクロ
代表取締役  
山﨑 昌宣氏
事業内容/介護・医療サービス、就労支援
【Derailleur Brew Works】https://derailleurbrewworks.com

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