残していく人も残された人も、決して後悔しないために
5 年前、母親が脳こうそくで倒れた。「最悪の事態のことも考えておいてください」と医師に告げられた父親が「元気なうちに供養の希望を聞いてやればよかった」と打ちひしがれる姿を目の当たりにした。
「母はその後一命をとりとめましたが、死が近くにあることを感じ、かかわるひとが後悔しない終活の必要性を痛感しました」と石原氏。
「納得のいく供養ができる仕事を自分で手がけたい」と考え、まず業界の実状を把握すべく石材会社に就職した。
供養の方法一つとっても、お墓のほかに、跡継ぎがいない場合はお寺が代わりに永代供養してくれる合同墓地、樹木葬などがあり、そもそもお寺を介さない手元供養や散骨もある。
石原氏は顧客のニーズを丁寧にくみ取り、ほどなく営業トップの成績を上げた。だが「会社の商品を売らなければならず、お客さんのすべてのニーズに応えられない」ことにストレスがたまり、「中立の立場で紹介、仲介をしたい」と早期の独立を決断する。
インターネット上のポータルサイト、窓口での相談スタイルなど、同様のサービスはすでにあったが、訪問での相談、サービスに特化することに決めた。
「リラックスした状態で気兼ねなく本音を引き出して、希望をかなえたい」と考えたからだ。
身近な人の死を考えたくないため、多くの人はことが起きてからでないと供養のことを考えないものだ。仮にお墓を建てると決めても、墓石の相場がどれくらいなのか、使われている墓石が本当にその通りなのかわからない。
石原氏は、訪問回数を決めた定額サービスの中で、相談者と向き合い、ときには業者の間に入り“行事役”も務める。
2019年4月の創業から1年は、関西一円を訪ね歩き、紹介する事業者の開拓に努めた。
この4月からは講演やセミナーを通じて終活の大切さや供養に関するトラブルをテーマにした啓蒙活動を通じ、顧客を掘り起こしていこうと考えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大でそれができずにいる。
当面は企業に対して福利厚生の一つとして同社のサービスの採用を呼び掛けていく。
母親は昨年6月に息を引き取った。「しばらくは遺骨と一緒にいたい」という父親の希望をかなえ1年は手元供養を続け、1周忌を迎える6月には「母親が希望していた散骨をするつもり」だという。
「残していく人も残された人も、決して後悔しないために」との思いが事業の原動力になっているという石原氏は、一方で「供養の仕事に誇りが持てる人をもっと増やしていきたい」とも考えている。
「女性だからこそ注目してもらえる」と先頭に立ってこの仕事の大切さを訴えていくつもりだ。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)