劇場からアニメキャラまで、エンターテインメントを香りで演出

 
アロマセラピストとして活動していた郡氏に、劇場空間を香りで演出する依頼がきた。

最初の仕事は、「ヘンゼルとグレーテル」でお菓子の家が登場するシーン。
「バニラやシナモンなど手もちの香料で仕上げたサンプルは、あえなく玉砕。求められていたのは、誰もがお菓子を連想する焼き立てのクッキーやカスタードのリアルな香りでした」。

その件をきっかけに食品の香りや風味について学び、香りに対する自分のキャパシティをぐんと広げた。

 

 
1対1の空間でお客様の気持ちや悩みを癒すアロマセラピストと、演出の仕事を兼業していた郡氏だったが、「空間演出では自分がつくり出した香りで、お客様に感動を与えられることは新鮮な喜びでした。多業種のスペシャリストたちと一つの作品をつくりあげる醍醐味も味わえます」と、演出の仕事に絞った。

 
当時の香りを使った空間演出は、扇風機で送ったり、香りをテープに付着させて飛ばすといった原始的な方法。そこで郡氏は、大空間でも必要なときに香りが拡散でき、残り香も狙い通りに瞬時に消せる専用機の開発にビジネスチャンスを感じる。

特殊効果専門会社の協力のもと、香り演出装置の開発に着手して事業化し、ビジネスプランコンテストでの受賞などを通して支援を集めた。

 
起業時の苦労を聞くと、「BtoBのなかでもエンターテインメントという狭い市場に、異業界からやってきた私は完全アウェイでした」と振り返る郡氏。香りという目に見えない商品やサービスの価値を、具体的な数値や根拠にこだわる男性社会で理解してもらうのは難しかったという。

 
しかし実績を積み重ねるうちに、エンターテインメントの香り演出は「SceneryScent(シーナリーセント)」と言ってもらえるようになり、仕事の幅も広がった。

例えば、テーマパークのアトラクション用に依頼された古いお屋敷の香りでは、制作クライアントに「この香り!」と喜んでもらえた。さらに「あの香りをまた嗅ぎたい」と望む人が多いことを知り、大勢で共有できて記憶に残る香りの可能性に自信をもった。

 

 
現在、郡氏は「バーチャルフレグランス」という新しいサービスを開発中だ。

ネット上に頻出するイメージワードを収集して分析したAIが、アニメやゲームのキャラクターの香りを選んでくれるというもの。イベントやコンサートなどで演出した香りを使って、キャラクターグッズを制作することも計画している。

 
一人では何もできない、周りと信頼関係を築くことがビジネスの近道と話す郡氏。「多様な価値を生み出す香りでエンタメ界を盛り上げ、人々に感動を与え、記憶に残る仕事をしていきたい」と意気込む。

 

代表取締役 郡香苗氏

(取材・文/花谷知子 写真/福永浩二)

2020年06月09日
株式会社SceneryScent
代表取締役  
郡 香苗氏
事業内容/空間の香り演出、香り演出装置の開発・販売、バー チャルフレグランスの開発

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