《講演録》日本レーザー近藤会長の経営哲学~崖っぷち会社を復活させた覚悟とノウハウ
▶スタッフと家族の幸せ、仕事への満足が顧客満足につながる
人事・評価制度に必要なのは、「透明性のある制度」と「納得性の高い運用」です。日本レーザーには、入社3年以内の新入社員や、第一子の出産を理由に退職した人は一人もいません。
成果主義・能力主義のもとで年収の差はありますが、雇用は守ります。辞めたくない人をリストラすることはありません。私自身もがんの経験がありますし、誰もが病気や介護等、ビジネス上の弱者になる可能性があります。
どんな状態でも気づきを与えるという意味での貢献はできますし、雇用不安がなければ、リーダーや中間層は安心して力を発揮してくれます。
我が社ではこの15年間に3人の社員をがんで亡くしましたが、地位と待遇は維持しました。また、60〜65歳は無条件で再雇用し、70歳オーバーのフルタイム社員もいます。
女性も活躍しています。30代後半にパートで入社し、在宅勤務を経て正社員になり、課長になったスタッフも。事務職から営業職という道もあります。
ダブルアサインをしているので、育児と営業の仕事が両立しやすく、ライフスタイルの変化に応じて、勤務形態はその都度自分で決めていくことができます。
外国人にも同様に成長の機会があります。中国出身で事務職から次長になり、経営陣をめざして勉強すると決意表明した社員がいましたが、彼女の発想や行動にはインパクトがあり、周りに良い刺激を与えてくれました。
雇用契約によらず、誕生日には全員にギフトとカードを送っています。最近は非婚化が進んでいるので、結婚祝いだけでなく、勤続15年、25年及び60歳定年時の節目にも祝い金と休暇を支給。
毎年行う周年パーティや忘年会には、本社ビルの清掃員さんも仲間の一人として招待します。定年退職したのに社内にデスクがある人もいます。社員旅行に家族を連れてきたり、派遣契約満了後に同僚たちが何か仕事はないかと探して、パートで継続して働いた人も。
ルールで縛るのではなく、人を主役に何ごともフレキシブルに対応しています。
スタッフが仕事に誇りを持ち、同僚に感謝し、家族と幸せに暮らす。その満足感が、回り回って顧客満足につながります。上司に忖度するのではなく、顧客に尽くすことでリピートオーダーが来るのです。
満足の循環こそが、進化した日本的経営だと信じています。
(文/衛藤真奈実)
近藤 宣之氏(株式会社日本レーザー 代表取締役会長)
1944年生まれ。慶応義塾大学工学部卒、日本電子株式会社入社。28歳のとき、異例の若さで労組執行委員長に推され11年務める。取締役アメリカ法人支配人などを経て、赤字会社や事業を次々に再建。その手腕が評価され、債務超過に陥った子会社の日本レーザー社長に抜擢。就任1年目から黒字化、以降25年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。役員、社員含めて総人員は67名、年商40億円で女性管理職が3割。2007年、社員のモチベーションを高める視点から、ファンドを入れずに社員からの出資と銀行からの長期借入金のみの、派遣社員、パート社員を除く現在の役員・正社員・嘱託社員が株主となる日本初の「MEBO(Management and Employee Buyout)」で親会社から独立。2017年、新宿税務署管内2万数千社のうち109社(およそ0.4%程度)の「優良申告法人」に認められた。第1回「日本で一番大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」、第3回「ホワイト企業大賞」、第10回「勇気ある経営大賞」など受賞多数。「人を大切にする経営学会」の副会長も務める。