《講演録》製造業の組織改革～実践企業が語る士気を高める戦略とは～【３】
《講演録》2021年10月14日(木)開催
【ものづくり向上委員会】
製造業の組織改革～実践企業が語る士気を高める戦略とは～
「業務の属人化」「経営層と現場で意思疎通が取れていない」などの組織課題に対し、製造業ではどのような対策がなされているのか。今回の講演では、上司からの支援、組織風土、制度待遇など60以上の項目を徹底分析し、製造業に合わせた対処法を紹介する。続いて、実際に組織を変革した中小製造業2社の経営者に経験談を語ってもらった。
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《講演録》製造業の組織改革～実践企業が語る士気を高める戦略とは～【１】
《講演録》製造業の組織改革～実践企業が語る士気を高める戦略とは～【２】
◆経験談を発表！中小製造業での実践例を知る
事例2：受け身社員を自主性社員に育て、トップダウンからボトムアップに変える方法
山本 正人氏（山本精工株式会社 代表取締役）
◉ボトムアップにしようと思ったきっかけ
私は大学卒業後、駆動系の専門商社で働き、そこで2年間トップクラスの成績を残しました。その後、自信満々で家業である山本精工に入社したのですが、3年間ずっと8人中最下位の成績でした。それでも社長の息子として妙なプライドがあったせいで、知ったかぶりばかりでお客さまからの信頼を得られない。これではいけないと努力を重ね、結果として2016年に常務取締役に就任することになりました。
私が会社をボトムアップ型に変化させようと思ったのは、自分が「アホである」という自覚があったからです。先代の父はとても優秀で、仕事ができる人でした。父の時代はトップダウンの会社で、スタッフはほぼ受け身。会社を任された私はまず、スタッフの「言っても無駄」というマインドを変えることに注力しました。
では、どうやってスタッフのマインドを変えたのか。それは、スタッフから愚痴や不満を引き出すことです。特に「言っても無駄」と思っている社員から愚痴を引き出すために「何を言っても叱られない会議」という場を作りました。ここでのポイントは仲の良いメンバーを数人集め、立場が上の人は参加させません。会社のナンバー3を議長に、2年間行いました。
◉若手の改善案がターニングポイントに
ターニングポイントとなった出来事があります。あるとき、有能な若手スタッフに改善案を聞いたところ「作業場の壁をぶち抜いてほしい」と提案してくれたのです。その理由は、隣の棟に行くために一度外へ出る必要があったので、動線を良くするために連絡通路を作ってほしいというものでした。
最初はできないと思いましたが、思いきって実行することにしました。1棟と2棟をつなぐ工事を200万円かけて行ったところ、作業効率が上がり生産性が大きく向上したのです。「これはいい」と感じ、2棟と3棟をつなぐ工事もしました。
このスタッフの提案を実行したことで、その後、ほかのスタッフからもさまざまな改善案が出てくるようになりました。改善のヒントが集まり、それらを実行することで売上げや生産性、利益が上がりやすくなります。そこからスタッフたちは「自らの力で会社を良くできた」という成功体験を味わえる。そうして皆が愛社精神を持ってくれるようになったのです。
◉人としての思いやりや気遣いこそ
会社は経営者のものではありません。会社を成長させるスタッフのものです。スタッフが日々一生懸命に働いてくれるから、私は給料をもらって生活できている。だから、それを還元して喜んでもらいたい。スタッフの笑顔が見たい。
そこに必要なのは、人としての思いやりや気遣いがあるかどうか。これが欠けてしまうと信頼関係が築けず、人は離れていきます。私自身、業績が上がっていく中で、どこか勘違いして「おれの力で業績が上がった」と思い上がってしまい、自己中心的になり、人の話を聞かず自分の意見ばかりを主張するようになったことがありました。
幸いなことに、ある方が注意して私に気づかせてくれました。経営者や役職が上の人には、知らないうちに思いやりや気遣いがなくなっていても、それを指摘してくださる人はなかなかいません。
逆に思いやりや気遣いをきっちりすれば、自分もハッピーになるし、人生を一緒に歩んでいきたい大事な人もハッピーにできるのです。
（文／安藤智郎）
山本 正人氏（山本精工株式会社 代表取締役）
「製造業はサービス業」という理念のもと、顧客・仕入先・スタッフの三方が満足できる組織を作り出している。「製造業のイメージを変えたい」という思いから、ラジオ番組のMCを務めたり、Ｍ-１グランプリにも参戦し、他社にはマネのできない独自の広報活動なども行っている。
