79歳シニアベンチャーが探り当てた「夢の種」
水道水に微量に含まれる残留塩素には強い酸化力があり、肌や毛髪を傷めるだけでなく、細胞を攻撃し老化や各種疾患につながるといわれている。
「これを見てください」と松下氏が取り出したビンには、塩素に反応し黄色く変色した水道水。これに同社が開発した抗酸化剤をひと吹きして混ぜると瞬時に無色となった。
「塩素を安価に速やかに除去することができ、しかもその状態を長時間保つことができる。夢の種です」。いきいきと語る松下氏は今年79歳だ。
研究職として勤め上げた武田薬品工業を退職した後「のんびりしよう」と思っていたところへ、あるベンチャー企業から「化学のわかる人が欲しい」と請われ、出合ったのが抗酸化作用を持つカルシウムイオン。
ただ、市販品は製造に半年かかり、臭いもきつかった。抗酸化作用をさらに高め、安定化させる方法を確立すべく実験室に通う日が続いた。
だが、会社の経営が厳しくなり、途中から給料も交通費も出なくなった。「実験が大好きなので、なんとかいい結果を出したいとの思いでいました」。ようやくめざす抗酸化剤を開発できたが、その会社に商品化する余力はなかった。
「自信作を何とか世に出したい」との思いが強くなり、2016年11月、自らシニアベンチャーを立ち上げた。
その後、故郷の香川県三豊市で、実弟の地縁を活かし地元の採卵鶏業者と出会う。抗酸化剤が鶏の飲水の添加剤として採用されたことで自信につながったという。また、昨年末には特許申請が認可され、特許を取得することができた。
だが、創業時に借り入れた資金は2年で底を突いた。「自己資金で行けるところまで行こう」。そう覚悟を決めた矢先、抗酸化剤の特許を応用した植物散布剤「液状複合肥料」が農林水産省から登録が認められた。「特許と合わせエビデンスの力は大きい。遠巻きに見ていた人たちが試してみたいと言ってくれるようになりました」。
採卵鶏業者では愛知県と奈良県の業者に採用が決まり、さらに拡販をめざしている。また、ゴルフ場のグリーンの養生剤として夏枯れした芝生が青々とよみがえる実証結果が得られたこともあり、ゴルフ場での採用も広がりつつある。
今後は人のアンチエイジング剤、家畜の成長促進剤などへの用途拡大も狙う。「開発に着手してから20年。苦労はありましたが、データは決して裏切りません。そして努力すれば必ず誰かが手を差し伸べてくれます」。
社名の由来は故郷、香川県の花・オリーブから。「生まれ育った三豊市は過疎に直面しています。事業を発展させ、いつか三豊で若者の雇用に貢献したい」。その強い思いが事業のモチベーションにもなっている。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)
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