廃番寸前の洗濯石けん 主婦の口コミで蘇る
どことなく懐かしいパッケージに包まれた「ウタマロ石けん」は、1957年に誕生した洗濯石けん。東京に本拠を置く日用品卸問屋が石けんのOEMを行うことになり、全国の石けんメーカーから選ばれたのが東邦だった。東邦は1920年に大阪で創業した石けん専門メーカーで、当時から質実剛健の姿勢でものづくりに取り組んできた。
発売当時、衣類を洗うのはもっぱら洗濯板と石けん。ウタマロ石けんも生活必需品として安定した販売実績を誇っていたが、60年代に入ると洗濯機が普及。石けんは粉や液体洗剤に取って代わられ、ウタマロ石けんの売上もその後40年ずっと右肩下がり。そんな中、1998年に発注元だった卸売問屋が廃業する。
ウタマロ石けんも生産終了になる予定だったが、愛用者から「なくさないでほしい」との声が多数寄せられ、東邦が商権を買い取って販売を続行することになった。すでに40年以上の歴史があるウタマロ石けんだったが、関西で売られるようになったのは、実はこの頃からだ。
販路が拡大したとはいえ、売上は伸びず、そろそろ廃番にしようとしていた矢先、2000年から売上が上昇に転じる。その理由は、ネットによる愛用者の口コミ。「洗濯機ではどうしても落ちない泥や食べこぼし汚れも、ウタマロ石けんを塗りつけて揉み洗いをすると、簡単に白くなる!」という評判が、口コミでネット上に広がったことが理由だ。
パソコンが家庭に浸透し、ブログやSNSも急速に広がっていくとともに、ウタマロ石けんの需要が拡大。愛用者の声が目に見える形になり、一気に人気が広がった。「自社製品の魅力をユーザーから教えてもらい、自信をもらいました」と西本常務。
長らくOEMメーカーだった東邦にとって、このことは大きな転機となる。「いい製品を作ってさえいれば、売れる」という確信のもと、ひたすら「品質重視」の路線で突き進んできたが、ユーザーの声の大切さを再認識。レトロな雰囲気が生み出す安心感を守りつつ、ロゴやパッケージのデザインも消費者目線で刷新した。
2012年には、食器洗い洗剤や住宅用クリーナー、部分洗い用液体洗剤もウタマロシリーズとしてリリース。一時は廃番の危機にさらされたウタマロが、今では看板商品だ。今後もウタマロブランドとOEMの2本柱で技術開発を進めていく。
(取材・文/北浦あかね)