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【飲食店開業への道】多彩な経験を糧に女将がつくる足を運ぶ価値のある料理店

2026.06.23

日本橋筋商店街の南端から東へ歩いて数分の場所にある「おばんざい たね」は、2025年7月にオープンした隠れ家的な料理店だ。一軒家を改装した和モダンな空間で、手作りの創作家庭料理と厳選した日本酒などを提供している。特製おでんには、鰹節店に依頼したオリジナルブレンドの出汁を使用。化学調味料を使わない、体に優しい味わいのおばんざいを味わえる。「大人がくつろげる空間と、心を込めた料理で、わざわざ訪れたいと思ってもらえる店にしたかった」と語るのは、一人で店を切り盛りする女将の向井氏だ。

おばんざいに合う日本酒を常時10種類以上用意。

向井氏は高校卒業後に結婚・出産。4人の子どもを育てながら保育士資格を取得し、保育士として働いた。その後、離婚を機に不動産会社へ転職したがリーマンショック時に倒産。その後、訪問介護事業所の運営に携わる。再婚後は夫の会社経営にも関わってきた。一見すると飲食とは無縁の経歴に見えるが、もともと家族や友人、近所の人たちに料理を振る舞うことが好きで、漠然と「飲食の仕事をしてみたい」という気持ちは心の中にあったという。訪問介護の現場でも料理の腕を発揮していた。テレビ番組のシェフVS主婦の料理対決に出演し、シェフに勝利した経験もあった。

2度目の離婚を経て次のステージを模索していた2022年頃、何か自分で起業したいと考えていた時に1か月の間に8人から「飲食に向いているよ」と言われ、「これはもうそちらに向くしかない」と食品衛生責任者や野菜ソムリエなどの資格を取得した。

化学調味料を使用せず、塩麹など天然の調味料で素材本来の旨味を最大限に引き出した手作りおばんざいが魅力(左)、こだわり抜いた出汁、みりん、塩のみでじっくり煮込んだ、奥深い味わいの特製おでん(右)

物件探しのなかで思い出したのが、祖父母が暮らし、父も住んでいた日本橋東の家だ。20年以上空き家だったため、建て替えや民泊としての活用も検討したが、借地であることから融資が難しいと判断し、一部を改装して飲食店として活用する方針に絞った。並行して、大阪産業創造館の飲食店開業プログラム「あきない虎の穴」を受講。「3年で80%が廃業する」という現実を知り衝撃を受けたという。そうならないために、飲食店向けのセミナーに片っ端から参加し、数字の管理も必死に学んだ。さらに、北新地の高級寿司店で調理補助と接客のアルバイトも経験。客単価3万円を超える店で磨かれた所作や感覚が、今も接客の軸になっている。

「その時その時にできることを精一杯してきた。これまでの経験すべてが今の店に役立っている」と向井氏。

オープン後、近隣の客から「工事の時から楽しみにしていた」と声を掛けられたときは本当に嬉しかったという。「お客さまにとって外食はイベント。ここでしか味わえない体験をしてもらいたい」という想いがリピーターを呼び、そのリピーターが友人を連れてくるという好循環も生まれている。訪日客に「アメイジング」と言われることもあり、「“おいしい”の一言に胸がキュンとなる。やっていてよかったと実感できます」と笑顔を見せる。

昼頃から仕入れや仕込みを始め、営業は16時半から。店先の灯がともると開店の合図。

まもなくオープンから1周年。現在は記念企画を検討中だ。「ワンオペは孤独だし大変。将来を見据えてスタッフの採用も考えたいし、集客の仕組みも整えていきたい」と意欲をのぞかせる。まだまだ課題はあるが、「自分がやりたいことだから頑張れる」と前を向く。

(取材・文/三枝ゆり 写真/福永浩二)

【 開業資金 】 1,600万円
自己資金400万円に加え、日本政策金融公庫から700万円、大阪信用金庫から300万円を借入れ。さらに、大阪産業局の設備投資支援(小規模企業者設備貸与制度)を活用し、200万円のリースを受けた。資金は、店舗工事に1,200万円、インテリアや厨房機器・食器類の備品に200万円を使用、残りは運転資金に。

【 立地選定 】 
日本橋東に祖父母や父が住んでいた古家があったことを思い出し、管理していた兄に相談。一部改装して飲食店にした。

【 店舗デザイン・設備 】 
「大人が落ち着いてくつろげる店」をコンセプトに、7社の工務店でコンペを実施。カウンターを中心とした、高級感のある和モダンな空間に仕上げた。

【 開業までに要した期間 】 約3年 

客層は幅広く女性1人でも訪れやすい雰囲気。インバウンド客が日本滞在中に再訪することも。

【 「あきない虎の穴」担当者からのコメント 】
初対面の印象は「しっかりした人やな~」。持ち物件ではあるけど改装費用が大きいので、例えばこういう制度もありますよ、こういうプログラムを受けられたらどうですか?というアドバイスを実行に移す素直さと行動力をお持ちだったので、あんまり心配はしていませんでした。「虎の穴」の調理実習で出されたメニューもレベル高かったし、最終プレゼンもお店のイメージがよく伝わる内容だったので、聞いていた金融機関の方々も「この人なら大丈夫」と思われたのではないかと思います。産創館から近いのもあって、よく使わせてもらってます!(大阪産業創造館 創業支援チーム 浜田 哲史)

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【 あきない虎の穴 】https://www.sansokan.jp/tora

おばんざい たね

店主

向井 綾氏

https://obanzai-tane.com

●事業内容/飲食店経営、調理、接客 ●座席数/カウンター8席、テーブル6席 ●開業日/2025年7月18日