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IHの原理をものづくりの現場へ誘導加熱技術で品質向上を支える

2026.08.04

品質を決めるのは温度だけではない。
加熱と冷却を精密にコントロールし、高品質を生み出す熱制御技術とは。

クッキングヒーターや炊飯器など、暮らしの中で身近な存在となったIH。正式にはインダクションヒーティング(誘導加熱)と呼ばれる技術だ。富士電子工業株式会社は、そのIHと同じ原理を産業用に応用し、高周波誘導加熱装置や高周波焼入装置を設計・製作している。「原理は家庭用のIHと全く同じです。ただ、家庭で使われているものより、はるかに容量が大きいものを作っています」と代表の渡邊氏は話す。加熱対象となるワーク(部品や材料)の周辺にコイルを配置し、高周波電流で磁界を発生させ、ワークそのものを発熱させる。それが高周波誘導加熱の基本的な仕組みだ。

高周波誘導加熱による焼入の様子。金属を瞬時に加熱し、性能を引き出す。

同社の装置は、金属部品の加熱をはじめ、ロウ付け、焼き戻し、焼結など、さまざまな用途に使われる。中でも主力は高周波焼入だ。焼入とは、鋼を加熱し、急冷することで硬く強い組織に変える工程である。「基本は加熱して冷却することです。ただ、どの温度まで上げるか、どこまで熱を入れるか、どのように均一に冷却を行うか。そこが大事になります」。

加熱後は瞬時に冷却。加熱と冷却の制御が品質を左右する。

このように、火で外側から加熱するのではなく、金属そのものを発熱させる点が高周波誘導加熱の特徴だ。自動車、工作機械、建設機械、船舶、電気機器などの金属部品は、強い力や摩耗、反復動作に耐えなければならない。同社の装置は、そうした部品の強度や耐久性を高めながら、求められる精度を実現するための熱処理設備といえる。「熱をコントロールするというのは、加熱と冷却をコントロールするということです。焼入をすると金属は加熱膨張して伸び、冷却で縮むとともに、金属の組織変態を起こすのでまた少し伸びる。そこをいかに均一に制御するかが、最終的な品質を左右するんです」。

代表取締役社長 渡邊 弘子氏

同社が手がける装置は、顧客ごとのオーダーメイドが基本だ。部品の形状、材質、硬度、サイクルタイム、安全装置の考え方まで条件は異なる。課題の相談から始まり、テストを重ねて仕様を決める開発案件もある。「寸法や材質をどうするかというところから相談を受けて、テストをしながらスペックを決めていく。そういう提案型の案件は、やりがいがあります」。

加熱条件を細かく確認・調整しながら、高周波誘導加熱による熱処理を行う。

創業から60年以上。同社は装置製作だけでなく、顧客から部品を預かり、必要な箇所に焼入れを施す受託加工も行ってきた。加工現場を持つことも、技術の蓄積につながっている。同社が大切にしているのは、単に安い装置をつくることではない。「初期費用だけを見ると安く見えても、妥協したものを作ると、後々トラブルが出たり、後工程に迷惑がかかったりします。きちんとしたものを作る方が、長い目で見ればコストの上でも合理的です」と渡邊氏は語る。近年は、ガスバーナーで加熱していた工程を誘導加熱に置き換えたいという相談も増えている。さらに、IoTを活用した予知保全・予防保全や、炉加熱とIHを組み合わせた「ハイブリッド加熱」にも注力。すでに加熱時間を3分の1程度まで短縮した事例もあるという。今後は、工作機械、建設機械、防衛関連など、自動車以外の分野にも展開を広げていく。また、昨年アメリカに子会社を設立し、海外市場の開拓にも積極的だ。

装置開発だけでなく高周波焼入の受託加工も行う。現場で培った技術が品質を支えている。

見えない電流や磁界、そして刻々と変化する熱の動きを制御する高周波誘導加熱技術。富士電子工業は長年培ってきた技術とデータを活かしながら、ものづくりの品質向上を支えている。

(取材・文/馬場昌文 写真/福永浩二)

富士電子工業株式会社

代表取締役社長

渡邊 弘子氏

https://www.fujidenshi.co.jp

事業内容/高周波誘導加熱装置の設計・製作、熱処理加工