脳波分析でパーソナライズしたVRをヘルスケア・ウェルネス分野へ
百聞は一見に如かず。ヘッドセットを装着すると、目の前に浮かび上がるのは飲料の自動販売機。ここで「指定した3種類のドリンクを買いなさい」と指示が出される。いつもの手順で購入ボタンを押し、交通系ICカードをタッチすると、取り出し口にドリンクが現われる。それを指定の場所に置く作業を60秒間に3回行う。
この製品は株式会社Mirai Innovation研究所が開発した『WAVEX』。リアルな日常のひとコマをまるでゲームのように疑似体験できるVRだ。どのような目的で使われるのか。代表のペナロサ氏は「高齢者の認知機能低下を予防するトレーニングツールとして使える」と話す。たしかに、指定された3種類のドリンクを覚えて、20種類以上の銘柄の中から間違えずに選び、限られた時間内に一定の手順で購入するのは頭を使う。
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VRで自動販売機のドリンクを購入。高齢者の認知機能低下を防ぐ。
WAVEXが他のVR製品と違うのは、脳波(EEG)センシングとAIを統合したVRであること。既存のヘッドセットにEEG電極を統合し、EEGデータと後処理された認知状態のデータをワイヤレスでストリーミングする。これによりAIがユーザーの認知力を分析し、VRアプリケーションを制御、操作できる。つまり、前出の自動販売機でドリンクを購入しているユーザーの記憶力、集中力、視覚情報などが一瞬でデータ化され、その状態にふさわしい指示(問題文)が出されるというわけだ。たとえばドリンクを1つ購入することから始め、徐々に個数を増やして難易度を上げていくなど、トレーニングレベルをユーザーの状態に合わせることができる。同社はこのVRアプリケーションを介護施設などに導入したいと考えている。
この製品の開発に着手して約3年。最大の課題のひとつは、「没入型のVR体験を維持しながら正確な脳波のモニタリングを実現すること」だった。言い換えると「ユーザーの頭部のどこに電極を置けば、もっとも正確なデータが取れるのか」ということ。開発者、神経科学者、エンジニア等が時間を費やし、高齢者ユーザーとのテストを通じて測定能力を向上させた。
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脳波センシングとAIを統合したVRヘッドセット『WAVEX』。
ペナロサ氏はWAVEXの着想を2つの社会課題から得たという。「高齢化社会における認知健康ニーズ(ヘルスケア)の増加と、現代の職場環境におけるメンタルストレスの緩和(ウェルネス)です」。前者の解決手段が上記の「次世代型バーチャル認知脳トレーニング」として、後者が「脳波センシングVRリラクゼーション」としてアプリケーションになっている。
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360 度方位で景色を見ながらリラックス度の数値を測定する。
後者のアプリケーションを体験してみた。ヘッドセットを装着すると、目の前に現われたのは宇宙、森、水中、ビーチ、寺院の5つの映像。穏やかな波が寄せるビーチの景色、静寂なお寺の庭園、宇宙から地球を眺める様子などがどれも360度ビューで現われる。その間、ヘッドセットではユーザーの脳波を検知し、どの映像にいちばんリラックスしているかをデータ化し、もっとも数値の高い映像が最後に再現される。同社はこのアプリケーションを職場に導入し、安らぎを提供してストレスを緩和し、従業員のメンタルヘルスに役立てたいという。
また、WAVEXは2025年の大阪・関西万博に出展されることが決まっている。社会課題に寄り添い、未来を切り開く同社の挑戦はこれからも続く。
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ペナロサ・クリスチャン氏
■ 2030年はこうなる ■
WAVEXが高齢者施設や医療機関、世界中の現代的な職場で広く採用される!
(取材・文/荒木さと子)