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【飲食店開業への道】人とのつながりでかなえた美術館のようなカフェ

2024.07.16

穏やかな空気が流れる大阪・泉南郡岬町にある「café kiitös(カフェキートス)」。円筒のような2階が目を引く美術館のような建物でゆったりと過ごしながら、ベトナムのバインミーやローストビーフの曲げわっぱランチなど絵になるカフェメニューを楽しめる。居心地の良い空気感は代表の川口氏の優しい人柄によるところも大きい。

前職は医療機関で管理職をしていた川口氏は、42歳の頃に占いの本で52歳に転機が訪れると知り、漠然とカフェがやりたいと思ったという。「妻には52歳になったら辞めるからと言い続けていたので、本当に辞めたときは驚かれたけど、やりたいことをやればいいと後押ししてくれた」と感謝する。

2017年に退職してすぐに泉南郡岬町の地域おこし協力隊の募集を見つけ「自宅のある和歌山市から車で15分と近く、カフェを開業する場所に適しているか確かめたかった」と飛び込んだ。単身で住みながら空き家の活用や地域活性化イベントの企画運営などの活動を通じて、カフェの経営者や料理教室の先生など地域内外のさまざまな人から刺激を受け、カフェへの構想を膨らませた。

活動を続けながら2018年には大阪産業創造館の飲食店開業サポート事業【あきない虎の穴】でカフェ経営のノウハウを学んだ。「わからないことだらけだったから同期の存在はとても心強く、いろいろと助けてもらった」。飲食店のコンサルティングをしている同期からはメニューや物品手配のアドバイスを受け、他の同期からはカフェで提供するワッフルを仕入れている。

代表 川口敬之氏

もともとは古民家カフェを考えていたが、偶然にも前職の関係者の別宅が空き家で、使わないかと打診があったのが、著名な建築家が手掛けた今の物件だ。管理が大変なのではと迷ったが、唯一無二の建物に魅了されたこともあり決断した。空間の雰囲気を損なわないようにキッチンは小屋キットを購入してDIYで増築。地域活動で知り合った人たちが手伝ってくれた。

コロナ禍での準備や開業はテーブルや椅子がそろわなかったり、来店客が少なかったりしたが「かえって個性ある空間に仕上がったし、丁寧にお客さんと接することができた。飲食店での経験がなく不安もあったが、喜んでいただける姿を見ると自信がもてたし、直接リクエストを聞きながらニーズに応えていった」と振り返る。2023年に愛犬と利用できるテラス席を作り、キッチンにグリルも導入した。

4年目を迎え、新メニューを出すと必ず食べに来てくれるリピーターもできた。「たくさんの人の助けがありやってこられた。今後はこの建物を維持していくためにも多くの方に知ってもらいたい」とSNSでの発信や新メニューの開発に力を入れていく。

(取材・文/三枝ゆり 写真/福永浩二)

【 開業資金 】 600万円
空調やキッチン、トイレ等の設備関係に400万円、運営資金に200万円。すべて退職金から用意。キッチンの改装は床の張り替えが必要で高額になるため、小屋キットを購入して敷地内にDIYで増築して費用を抑えた。

【 立地選定 】
岬町の地域おこし協力隊に参加し、豊かな自然とのどかな魅力を実感。岬町内で古民家を探したが、前職の関係者がオーナーの美術館のような物件との出合いに縁を感じて選んだ。

【 店舗デザイン・設備 】
建築家の狩野忠正氏が設計した住宅で、円筒を壁で挟んだような外観が特徴の建物。1階の大きな窓が広がるLDKと和室を店舗として利用し、元の空間やオーナー所有の美術品を最大限に生かした。

【 「あきない虎の穴」担当者からのコメント 】
元放射線技師が地域おこし協力隊に参加して、飲食店の経験がほぼない状態で、地域の食材を使ったバインミー等のベトナム料理を提供するカフェを始めたい……という話を聞いたときは、正直難しいやろな~と思いました。が、「虎の穴」で開業計画をブラッシュアップする中で現在の物件を見せてもらってからは、面白いかも、と思うようになりました。実際にお店に伺ったのは開業後でしたが、建物の魅力はもちろん、料理や接客もいい感じで、わざわざ行く価値があるお店になってるな~と。遠いんで中々行けないのが難点ですが(笑)。
(大阪産業創造館 創業支援チーム 浜田 哲史)

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【 あきない虎の穴 】https://www.sansokan.jp/tora

café kiitös

代表

川口 敬之氏

https://www.instagram.com/cafe_kiitos2021

事業内容/カフェ経営
座席数/30席
開業日/2021年4月