形、大きさ、粒数…、人の手による画像解析を自動化
研究者が粉末の形状や大きさを調べる際には、顕微鏡写真を表示したディスプレイにスケールを当てて測定するのが一般的だという。化粧品や日焼け止めに使われる酸化チタンなどを研究していた窪内氏も、そのように測定していた1人だった。「測るだけで1日8時間を費やすこともあり、どうにか自動化して測定時間を短縮し、できた時間を創造的な研究に振り向けたいと思った」。
自動測定技術を開発するため、同僚の研究者と2人で、全く知識のなかったプログラムとAIの勉強を一から始めた。画像解析に用いたAIは、より習得のハードルが高い「セグメンテーション」と呼ばれる技術。「従来の異常検知や物体検出のみを行う手法とは異なり、対象物の大きさや形状まで正確に測定できる点に着目しました」。さまざまな特徴を持つ粉末を分析するには、あらかじめ学習用データを蓄積しておく必要があるが、これを効率的に生み出すプログラムも独自に開発した。
実用化のめどが立ち、起業したのは2023年12月のこと。半年後には、クラウド上に画像をアップするだけで数分内に画像解析を行うサービス「GeXeL(ジクセル)」をリリースした。うれしい誤算もあった。「当初は化学領域の研究者をターゲットにしていたのですが、たまたまパンの気泡を調べたところ、孔などの輪郭のはっきりした画像にも応用できることがわかりました」。展示会や学会に出展したところ思いのほか手ごたえが得られ、さまざまな開発案件が持ち込まれるようになった。

画像をアップロードするだけで簡単に解析することができる。
その一つが、中野製薬株式会社と共同開発したキューティクル解析技術だ。これまで髪の毛を保護するキューティクルの枚数を測るには、毛髪断面を見るしかなかったが、GeXeLの活用により、毛髪表面のキューティクルの重なり具合を把握し、枚数だけでなく損傷度やつやなどを数値化できるようにした。一人ひとりの毛髪の状態に応じた適切なヘアケアサービスを提供するビジネスモデルを考案しているところだ。

毛髪表面のキューティクルを解析。
他にも、工場での不良品検出に当たって、単に異常を検知するだけでなく、不具合の原因までを特定できるようにした。また、果実の葉脈の形状からの栄養状態を分析する実証研究も進めているところだ。「複数の画像情報をもとに結果と照らし合わせ、因果関係を見つけることで新たなサービスを創出できる」と窪内氏。研究者の作業効率化を目的に開発した技術の応用範囲は大きな広がりを見せている。

代表取締役/博士(工学) 窪内 将隆氏
(取材・文/山口裕史)
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