【対談】世界一になるためにつくりたいものをつくる
―売れる自信は?
高本 靴づくりに没頭しすぎて倒れた時に、悔いのないよう自分のつくりたいものをつくろうと思いました。まずどんなシーンで履いてほしいのかを考えました。
ちょうど第1子が生まれた時で、この子と家族3人で履ける靴をつくりたいなと。それで丸くて可愛いおしゃれなデザインを突き詰めました。売れようが売れまいがかまへんと開き直って。できあがった時には「こんなん売れるわけない」と皆に笑われました。
川合 一緒です。工具って人間の手の延長として対象物をどうにかしようとする道具なので、シンプルにしようとすればするほどどれも同じような形になるんです。
だけど僕はパッと見て特徴のあるものをつくりたいと思って社長に頼み込んでデザインを勉強しました。出来上がったものをプロのデザイナーに見てもらったら「無駄が多い」と鼻で笑われました。周りの反応もさんざんでした。
―それが売れ出したのはなぜ?
高本 靴業界の展示会に出しても実績をまず問われる。靴店に並べても販売員がつかないから良さを説明できない。それで特徴をしっかり伝えてくれるところはどこだろうかと考え、通販番組と雑誌に売り込みました。
それを見て店が置いてくれるようになりました。買いたい人は実際に履いてみたいので店へ行く。その循環ができてじわじわ売れていきました。伝えることの大切さを知りましたね。
川合 グッドデザイン賞をもらうことができて実績ができた頃に、ちょうどメディアにも取り上げられる機会があり売れ始めました。
それ以降は、機能とともにガンダムを彷彿とさせるような男心をくすぐるスタイリングを重視しました。ぼくの中では「かっこいい」がすべてに通じるコンセプト。自分がかっこいいと思うものでなければ愛してもらえないと思っています。ただ、売れるかどうかは店に並ぶまでわからないのでいつも不安ですが。
高本 そう、決戦前夜という感じですよね。全員に共感してもらおうと思うとあたりさわりのない商品になってしまう。この人に届けという強い思いがあって、それをわかるという人が集まってくれたらそれだけで力になります。
最近思うんです。ぼくらは楽しく歩ける人を増やすために靴をつくっているんやろなと。
川合 ネジザウルスを使うことで、それまで使っていた工具との違いに感動してもらえる人をどれだけ増やせるかを考えています。だから開発会議ではいかにエンジニアらしい特徴が出せているかという基準に照らし合わせてダメ出しをしあっています。ぼくもダメ出しされてばかりですが(笑)。
高本 ぼくは仕方なく(笑)社長やっていますけど、本当は靴づくりだけやっていたい。だから名刺の肩書きは「代表取締役・靴職人」にしています。
川合 僕の仕事はマーケティングから始まって特許を調べてからデザインを考え、構造を設計し、メーカーと話し合って製造しやすい、コストのかからないデザインに落とし込んで、金型を発注して、製品ができたらパッケージのことまでやらないといけない。
ここをやるとここも知らなあかんというのが出てくる。それは使命感みたいなもので。だから職人でもないし、デザイナーでもない。
高本 なんか名前を考えないといけませんね(笑)
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