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油性マーカーのロングセラー 「マジックインキ」の誕生秘話

2013.04.10

 

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 油性マーカーのことを「マジック」と呼ぶ人が多いが、これは同社の商品名「マジックインキ」に由来する。「インキといえば水性で、紙にしか書けなかった戦後間もない頃に木材、皮革、鉄板などに文字を書けるという触れ込みはまさに“マジック”だった」と寺西氏。

 商品化のきっかけは、産業使節団の一員として渡米した内田洋行の内田憲民社長(当時)が持ち帰った油性ペンを、初代社長の寺西長一氏が見本市で見つけたことに始まる。その機能に驚いて「ぜひ作らせてほしい」と申し出たものの、見本となるべき実物はふたも容器も壊れていた。ボロボロになった残骸とにらめっこしながら、速乾、耐水性というキーワードをもとに容器の綿に含まれた油溶性インキが毛細管現象でペン先に伝わり出てくる仕組みと仮定し、手探りの開発が始まった。

 最も困難を極めたのはインキ材料として水溶性の染料しか手に入らなかった時代に、油性溶剤に溶ける染料を探し出すこと。試行錯誤の末、水溶性染料と樹脂を反応させることで油溶性染料を作りだした。ペン先はインキを含みやすい素材をフェルトとして、山高帽に使われているのを見つけ帽子屋を訪ねて素材を探し当てた。「水槽を泳ぐ魚に文字を書いてその耐水性を確かめた」という逸話も残る。

 発売後、泣かず飛ばずの状態が続いた。初任給が8,700円だった時代に80円という高価な値段に加え、そもそも市場になかった商品だけに用途のアピールにも苦労した。ふたをし忘れた購入者から「インキがかすれる」と苦情が相次いだ。注意書きを記した説明書を入れ、有名な漫画家や画家が使い始めたことでようやく売れ行きに弾みがついた。

 その後、油性、水性マーカーで商品ラインアップを広げる一方、「マジックインキ」のブランド力で企業から舞い込んでくる工業用インキのニーズにも応えていった。自動車業界向けには検査時のチェック用に。また、液晶フィルム用には巻き取り時のマーカー用に「数秒で乾く速乾性」を求められ、溶剤の選定、樹脂の配合で細かな要望に応えている。

 「マジックインキ」をはじめとする油性マーカーの年間生産数は2500万本を数え、シェア30%ほどを占める。「これからもさまざまな用途で使ってもらえるように商品開発に取り組んでいきたい」とパイオニアとしての気概をのぞかせる。

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▲漫画家の長崎抜天さんがひと筆書きで描いた漫画が評判を呼び「マジックインキ」の人気に火がついた。

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▲発売当時のマジックインキ(8色セット)

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▲発売当初、商品に添付されていた説明書

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▲代表取締役社長 寺西 寿三氏

※「マジック」「マジックインキ」は株式会社内田洋行の登録商標です。

寺西化学工業株式会

代表取締役社長

寺西 寿三氏

http://www.guitar-mg.co.jp/