親水性素材の力であらゆる基材を汚れから守る
油性インキが水の膜に浮かぶ
強度の高いプラスチック、ポリカーボネートに「アドテックコート」を塗布し、黒の油性マジックで線を書く。その上から水を一滴たらすと、黒いインキが塊になってはがれ、線は跡形もなく消えた。「これが超親水性の効果です」と岸本氏。
プラスチックやガラスなど基材の表面はミクロン単位の凹凸形状になっており、汚れはその凹凸の上に乗っかっている。「アドテックコート」に含まれるナノサイズのシリカ(二酸化ケイ素)が空気中の水分子を吸着し、凹凸の溝に入り込んで薄い膜を形成することで、汚れが水の膜に浮かび上がってくる。これが汚れを防ぐメカニズムだ。
無機材料のみを使用して製品化
岸本氏は大手電機メーカーで長く海外駐在を経験した後、貿易業の会社を立ち上げた。並行して「付加価値の低いものづくりは海外に移転してしまう」という危機感から、東大で研究が進んでいたロケット用耐熱セラミックの研究開発に資金をつぎ込んだ。
だが、研究者が急逝し、その後研究開発を独学で引き継ぐことになる。1300度までの耐熱効果を持つコート剤の開発にこぎつけたものの、用途はごみ焼却炉向けなどに限られていた。
そこで培ったコーティング技術を生かして「もっと広いマーケットで勝負をしたい」と、新たにターゲットに狙ったのが防汚の分野だった。さらに環境への負荷を考え、世界で最も厳しいEU基準で規制されている有害物質を一切使わないことを決め、無機材料のみでの商品化にこだわった。
自動車、ステンレスなどで実績積む
7年前の開発以来、主にOEM供給で展開し、浴室の鏡の曇り止め、浴槽のぬめり防止剤としてヒットを裏で支えた。一方で、自社展開を進めるべく、4年がかりで鉄道・自動車車両、ビル、ホテル業界などにサンプル供給をし続け効果を確かめてもらったところ、それぞれの企業で高い評価が得られた。
自動車補修業向けには防汚剤として採用され、すでに5000台分の輸入車に使用実績があるほか、ステンレスメーカーがエレベーターのボタン部分や外枠部分の目立ちやすい指紋汚れなどを抑えるコーティング剤としても採用が進んでいるという。
「使える基材としてはガラス、金属、陶器、石などの無機基材からプラスチック、フィルムなど有機基材まで広い。つまり紙、布、生の木など水を吸わないものなら何でも」と岸本氏。現在狙っているのがソーラーパネル。
「発電効率を高めるにはパネル表面の汚れを防ぎ、降雨時は雨水を塊にして早く流してあげる必要がある。そこで強みが発揮できるはず」。巨大なマーケットをめざしてチャレンジが続く。
【こんなところで使ってます】
▲車、電車などの有機塗装面(右上)。エレベーター、台所のシンクなどステンレス(右下)。太陽光発電パネル(左)。ビル、店舗、車、浴室などのガラスや鏡、洗面、トイレ等の陶器、テント生地などさまざまなところにコーティングが可能。
【こんなところで使えるかも!?】
▲清掃するのが困難な山奥にあるメガソーラーパネルにコーティングすると、雨水で汚れが流れる上、発電効率もUP。
代表取締役 岸本 克巳氏
株式会社トレードサービス
代表取締役
岸本 克巳氏
設立/1987年
従業員数/3人
事業内容/開発部門のみを持つファブレスメーカー。水性完全無機コート剤「アドテックコート」と超耐熱耐酸化被膜剤「コスモコート」が2本柱。無機塗料の応用技術として国内特許3件、米国特許1件、申請中2件がある。