≪講演録≫若き女性起業家の想いが切り拓いた「伝統産業×赤ちゃん・子ども」の市場
本物を次世代につなぐ「0から6歳の伝統ブランドaeru」
大学時代に訪れた、徳島県の本藍染の職人さんとの出逢いから生まれたのが、「徳島県から 本藍染の 出産祝いセット」。出産祝いセットは、「日本の“あい”で赤ちゃんをお出迎えしたい」という想いから誕生しました。日本の伝統産業の職人さんがつくったものを贈ることで、赤ちゃんが日本の伝統に出逢う機会を生み出したいというブランドの想いを体現した商品です。
自分で食べる、を応援する「こぼしにくい器」は、器の内側に返しをつけることで、まだ器の扱いになれていない赤ちゃんが、ご飯をすくうお手伝いをします。またそれぞれの器には、各地域の土や釉薬・木などを使用するので、それぞれの特色が表れています。ご両親やおじいさま・おばあさまが、自分のルーツのある地域のものを選べるのでうれしいという声を多くいただいたこともあり、今後は全都道府県・47種類の「こぼしにくい器」を生み出して行きたいと考えています。
やりたいことを周りに伝えることが実現への一歩
私は、ジャーナリストになって、「伝える仕事」がしたいとずっと思っていました。でも、仕事として生きていくには専門性がいる。自分は「何を伝えたいのか」と考え、たどり着いた答えが「日本の伝統」というテーマでした。
中学・高校時代に茶華道部に所属していた私は、当時から日本らしさに惹かれ、特にお茶室にいる時間はとても心が落ち着いたことを思い出したのです。それはなぜだろうと考えると、お茶室という空間は伝統産業品ですべて構成されているんですよね。誰かが一生懸命に、丹誠込めてつくったものは、人に語りかける力があるのだと思いました。
とにかく、「伝統産業品をつくっている人に会いに行きたい!」と考えましたが、学生なのでお金がない。そこで、日本全国の職人さんを取材して回るという企画書を書き、その想いを会った大人の方々に伝え続けました。すると、ある方がJTB西日本さんに企画書を渡してくださり、先方としても地域の魅力を発信して、そこへ旅行に行きたいという人が増えたらいいねということで、大学生の私に職人さんを取材する仕事をくださったのです。それが、現在につながる第一歩となりました。
恥ずかしいと思ってやらないよりも、やったほうがいい。言わないよりも言った方が実現の可能性が高まると思うんです。そういう姿を大人が子どもたちに見せると、「自分はこんなことをやりたい」と言える子どもが増えていくのではないでしょうか。
新規事業の「aeru room」「aeru oatsurae」
私たちは、東京直営店「aeru meguro」は、和えるくんのお家。京都直営店「aeru gojo」は、おじいちゃん・おばあちゃんのお家と考え、ものを売るというよりも、和えるの想いや商品にまつわる物語を「伝える」ことを最も大切にしています。まずは商品に触れ、一つひとつの焼き加減や釉薬の違いなど、手仕事のおもしろさを感じていただけたらと思っています。
次世代に日本の伝統をつなぐために、様々な入口を生み出していこうと考え、新たに立ち上げた事業が「aeru room」です。約3年前から構想を考えており、ホテルの一室を和えるがプロデュースし、日本の伝統や地域の魅力を感じられるお部屋にするという事業です。第1号aeru roomは、今年9月に長崎にオープンしました。天井には職人さんによって作られた唐紙をしつらえ、日本の貿易の玄関口として栄えた長崎ならではの調度品でお客様をお迎えしています。
また、「aeru oatsurae」は、職人さんとともに、お客さまの想いを実現し、世界にひとつだけのものをお誂え(=オーダーメイド)するという事業で、こちらも今年スタートしました。
和えるくんが成人するまでの20年間に、10の事業を立ち上げる構想です。そのなかで、日本の伝統の魅力を伝えていくことで、日本の伝統が次世代につながる循環を生み出したいと思っています。
(取材・文/花谷知子)