「よそがやらない」 商品開発集団へ
今年、ホームセンターを通じて発売した「缶ストーブ」は、木炭や薪のほかに練炭、豆炭などさまざまな燃料に対応できるよう構造を工夫した、ありそうでなかった商品だ。アウトドアレジャー用だけでなく災害など非常時の備えとして購入する人も多いという。
開発のきっかけは2年前、工業デザイナーとの出会いを通じ始まった全社員参加の新商品アイデア会議。いろいろな燃料が使える缶ストーブが欲しいという顧客からの要望をもとに、製造現場の社員たちが工場脇の空地で何度も実験を繰り返し、デザイン性にもこだわって商品化した。
創業間もないころは、炭をつかむ火ばさみや、かまどの灰をかき取る什能(じゅうのう/万能スコップ)を製造していた。戦後、焼失した工場を再建し再出発した田中氏の祖父にあたる2代目は、プラスチックが普及すると見越し、いち早く樹脂成型機を導入して農業用バケツを生産したかと思えば、焼き具合が見えるようふたをガラス状にした魚焼き器を開発し、大ヒット商品に育てた。
「よそがやっているものはつくらない、が2代目のこだわり。考えたアイデアを形にするためにあらゆる加工会社とネットワークをつくったのも2代目の功績です」。
冒頭に紹介した「缶ストーブ」では、長年家庭用日用品で使っていた「松印」に加え、新たなブランド「tab.(タブ)」を立ち上げた。近年は業務用商品が主流になっていたため「ブランディングがおろそかになっていた」との思いからだ。「せっかくいいものをつくっているのだから、しっかりと当社のことを認知してもらい、選んでもらいたい」。ブランド名は社名の田中文を縮めてつけた。英語で「出っ張り」の意味は「よそにないもの」に通じる。
11月には、ソロキャンプやツーリング向けのアウトドアブランド「コニファーコーン」も新たに立ち上げ、2層構造ながら折り畳めるストーブを第1号商品として市場に送り込んだ。
新商品アイデア会議ではそこから派生してコーヒードリッパーやテーブルなどの商品化に向けた検討が続く。「すでにあるものでもうちでつくったらどうなるかを提示したい」と田中氏。めざす姿は「商品開発の専門集団」だ。約100年の歴史で築いた社外のものづくり企業とともに、実現に向けて走り続ける。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)