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【長編】大失敗を通じて再認識した起業の原点。「本当に創りたい会社を創る」

2013.06.10

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いまや全国2100院を超える接骨・整骨院に財務や人事など経営支援を展開するリグア。順風満帆に見える事業展開の背景には、起業の原点に回帰せざるを得ない苦い経験が…。若き起業家がどのような志で、いかに事業を展開してきたのか…その背景に迫る。

◆川瀬社長は20代で起業し、いまは代替医療の現場に特化した経営支援を展開されています。まず事業内容をご説明いただけますか?

接骨・整骨院は日本で90年以上の歴史を持っています。代替医療として地域医療になくてはならない存在である一方、整骨院数の激増による患者の分散など、整骨院市場は激動の時代を迎えています。その結果、整骨院事業が家業から事業へ、個から組織へと改革する事業者が増え、これまでなかった課題が出てきたのです。

たとえば採用や教育などの運営面をはじめ、財務管理や事業戦略などの経営面などがそうです。整骨・接骨院はこれらの事業課題を解決しなければ生き残るのが難しくなってきた。当社はこれらの課題を解決するべく、「運営サポート」「経理サポート」「情報サポート」の3大サポートを中心に提供しています。

「運営サポート」では顧客管理情報ソフト(CRM)の導入をベースに、蓄積した患者データをもとにした事業運営を支援します。次に「経理サポート」では当社と税理士事務所が提携し、会計や財務、記帳代行などのサポートを行います。「情報サポート」では、DVDやWebサイトなどを通じて接骨・整骨院の最前線の情報を提供しています。

現在、日本には接骨・整骨院が4万軒ほどあるといわれています。そのうち、1軒の売上げ規模で年商1億円を超えるのは5%で、年商5000万円~1億円は10%。実際にはほとんどが年商2000万円前後です。ではどうすれば年商5000万円~1億円、さらにそれ以上の売上げを達成できるのか。それは家業から事業へと脱皮し、分院展開することです。私たちは年商でいえば5000万円以上、家業から事業への脱皮をめざしているところを主なターゲットに経営支援を提供しています。

◆なぜニッチな市場に特化し、経営支援で起業しようと思ったのでしょう。明確な市場の読みがあった?

もちろん市場分析などの調査も行って勝算があると判断したわけですが、最後は気合いですよ(笑)。「出たとこ勝負のガチンコ」というのが正直なところです。ではそもそもなぜ接骨・整骨院なのか。1つは兄が柔道整復師だったこと、もう1つは私の体が満身創痍で、自分自身が整骨医療に救われた患者だったからでもあるんです。

ちょっと私の小指を見てください。本来は曲がるはずのない真横に90度に曲がっています。一方、この中指は第一関節が曲がりません。これは大学まで続けたアメフトの後遺症なんです。ほかにも股関節付近にある前十字靭帯は断裂していますし、肩は脱臼の影響でボールを投げることもできません。腰はいつヘルニアになってもおかしくない状況ですし、首に関してはすでにヘルニアを発症しています。見た目は元気ですが、実際にはボロボロなんです。

選手時代はケガが絶えなかったので、接骨院や整骨院にずいぶんケアをしてもらい、その結果、アメフトを続けることができました。

この東洋医学の分野で事業化したいと思ったのが、この分野を選んだ一番のきっかけですね。私だけでなく、人は体のどこかに不調を抱えているものです。でも普段はそんなことをいちいち人に言いませんよね。とりわけ体の衰えに苦しむ年配の方は膝や腰をはじめ、常にどこかに負担を抱えている。

ではその悩みをどこに相談するのかといえば、接骨・整骨院なんですよ。先生に会って心を開き、普段は人には言わない体の悩みも含めて打ち明けるわけです。だからこそ接骨・整骨院の先生は患者さんの思いを受け止める人格が必要ですし、ホスピタリティの精神がなければなりません。こうした思いをベースに、柔道整復師の兄と整骨院事業を中心にスタートしたんです。

◆そもそも川瀬さんはなぜ若くして起業しようと思われたんでしょう。

結婚式の際に母から聞かされたのですが、幼稚園の頃に七夕の短冊に「社長になりたい」と書いていたそうです。両親は会社勤めをしていましたし、両親自身もそれぞれ公務員家庭。だから環境として社長業を理解していたわけではなく、感覚的なものだと思います。

その想いは大学時代も変わらず、卒業後は起業に向けて2社で修業を積み、25歳で整骨院事業を中心にスタートしました。柔道整復師の兄が現場、管理会計に長けた父が経理、私が経営という体制でスタートし、2年目には早くも年商1億円を超えるなど面白いほどうまくいったんです。事業を始めて2年目にして全国4万社の院の上位5%に入ったわけです。

その後、整骨院を兄に託し、私は2001年に独立しました。「接骨・整骨院にはホスピタリティマインドこそ必要」という思いで教育コンサルティング事業を創業しました。

2004年には株式会社リグアを設立し、現在の事業基盤を築いてきました。接骨・整骨院に特化して経営支援を展開している会社は日本で当社のみで、当社のサービスが事実上の業界スタンダードになりました。現在は2100軒以上に経営サポートを行っています。

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◆これまでずっと順風満帆だったんですか?

もちろん大失敗もやらかしていますよ(笑)。実は7年前に株式公開をめざした時期があるんです。当時はリラクゼーションサロンの事業展開にも力を入れていたのですが、上場基準では株式公開できない業種だとわかったんです。その瞬間に強い不安を感じました。

当時、すでに40人ほどの従業員がいて、みんなで公開をめざしていました。正直にいえば、あの時は私を筆頭に誰もがお金を第一に考えてしまっていたんです。あんなに熱い志を持って起業したのに、です。起業してから面白いように経営がうまくいっていました。いま考えるとアホちゃうかと思うけど、「経営は簡単だ」とまで思うようになっていた。もちろん理念はありましたが、自分でも気づかないうちにその思いがゆがんでしまっていたんです。

そして公開できないとわかり意気消沈していたとき、先輩から「ある会社を株式公開させたいので役員として手伝ってほしい」と依頼されたんです。そこで、自分の会社で公開できないのであれば、ここで上場利益を得て、その資金をまた自分の会社に持ち帰ろう、そんな誘惑にかられたんです。そこで当時の役員を集めて、開口一番こう切り出しました。

「俺、社長辞めてええかな」

いきなり何を言い出すんやと驚いていましたが、「上場利益をこっちに引っ張ってくるから社長辞めさせてくれ」と理由を説明すると、全員一致で「OK!いってらっしゃい!」ということになったんです(笑)。

そこでいったん自分の会社の社長を退いて、ある会社の副社長に就任。自己資金もその会社に突っ込みました。でもふたを開けてみると…とてもじゃないけれど公開できるような状態ではないことがわかった。自分で立ち上げた会社の社長を辞めてまでこっちにきたものの、とんでもないことをしてしまったのではないか…。そう考えると夜も眠れないようになりました。

ある時ふと、リグアの役員に電話したんです。すると売上げがいくら伸びたとか、彼らもお金の話しかしない。「経済活動を通して、万人の健康と安心を提供する社会を創るという志はどこにいったんやと。高い志を描いておきながら、結局は金がすべてやないか」。そう思った瞬間、「俺はこのままではダメになる」と頭を打たれたような感覚に陥り、副社長を辞めようと決心したんです。そして次の日に辞意を伝えてリグアに戻りました。いきなり副社長を辞任したので大問題になりましたが、その大失敗を通して、自分が起業した原点を思い出すことができたわけです。

それからですよ。いまの事業に特化し、基盤を築くことができたのは。現在は生きていくうえで本当に大切なことを大事にしたいと思っています。たとえば「お客様が大事」と言葉ではよくいいますが、自己満足ではなく、そのお客さんにとって本当に大切なことは何かまで深く考えるようになりました。

人間って誰でも人のために何かしてあげたい、人を幸せにしたい、そんな欲求があるはずなんです。お客さんの笑顔やありがとうが仕事の源泉といえる、そう心から感じながら仕事をすることが本当の働く意味だと思っています。

そんな気持ちを再認識させてもらったエピソードがありました。当社では月に一度、勉強会を開催していて、その際に事務所の大掃除も行うんです。ですが今年に入ってからの3ヶ月間は業務が忙しく、勉強会も掃除もできませんでした。

業務が落ち着いてきたので3ヶ月ぶりに勉強会を再開し、久々に掃除も行うことになったんです。私は自分が担当しているトイレ掃除を始めました。3ヶ月も放っておくとかなり汚れているだろうなと思っていましたが、全く汚れていない、きれいなんです。きっとビル清掃会社の2人の女性が丁寧に掃除をしてくれているからだと思って、個人的に菓子折りを買い、その方々に渡してもらいました。

すると涙を流して喜んでくださって、今度はその姿を見たうちの秘書まで涙を流しました。さらに感動の連鎖は続きました。今度はその会社の専務が当社に訪問されたんです、「我々の仕事をここまで感謝してくれる人はいない。彼女たちから話を聞いた社員みんなが元気になった。本当にありがとうございます」と仰ってくださったんです。どうやらそのお二人が菓子折りを会社に持ち帰り、同僚や上司の方へ報告をされたようです。

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当社の理念は「良心の相互創生」です。みんなが良きことを思い、良き行動をすれば、良心を相互に創り出すことができ、人生が幸福になるという考えです。この理念に改めて立ち返ることができました。

誰かのために真剣に仕事をしている。その瞬間は評価なんか気にしないでしょう。でもふと、ありがとうと言われ、自分自身も人に感謝されることで、この上なくありがたいと思う。それこそが本当の仕事だと思っています。この理念を忘れず、おごらず、今後も世の中の人に健康と安心を提供できる会社をめざしていきます。

株式会社リグア

代表取締役

川瀬 紀彦氏

http://ligua.jp/

設立/2004年 従業員/28名(グループ全体98名)

事業内容/全国2100軒を超える接骨・整骨院に「運営サポート」「経理サポート」「情報サポート」を中心とした経営支援を展開する。