周りのおかげで ここまでこれましたから
さまざまな大きさの小刀と丸ノミを使い分けながら、仏壇を飾る修行僧や竜、松、雲を立体的に彫りあげる。作業台に並ぶ日頃よく使う30本ほどの彫刻道具の柄は、握りやすい太さにするためすべて自分で作りこむ。
大阪仏壇の特長は表現の細かさ。刃を鋭角に研ぎ、柔らかい材質の木に刃を繊細にぶつけながら削りこんでいく。
伝統工芸士が出品する作品展で最高賞を取る技能を持つが、この世界に入った頃を思い出すと「今の自分の姿をまったく想像できていなかった」と語る。
大阪仏壇の彫刻を生業とする家に生まれ、25歳の時「仕方なく手伝い始めた」。元来「ちゃらんぽらん」な性格だったが、仏壇の需要が明らかに減っていくのを感じ「技術を磨かなければ取り残される」と感じた。
手本になったのは、洗いの修理で戻ってくる数十年前に作られた仏壇。「松の葉一本、僧の目鼻の細部まで丁寧に彫り込まれていた」。父とことごとく対立しながら、自分の型を確立した。
独り立ちし始めたころ、上物の仏壇を扱う仏壇店に持って行くと「これでは使い物にならん」と突き返されたこともある。「それでも私に発注し続けてくれた。長い目でいい職人を育てようという気概のある方々に支えてもらって今がある」と感謝する。
大阪仏壇で彫刻の技を継承するのは辻田さんを含め2人だけになった。後継者はいないが業界を取り巻く現状を思えば「どうしようもないこと」。仏壇店や寺から「辻田さんの技があるうちに」と舞い込む依頼を淡々と心を込めて彫り続ける。
▲デザインは手書きで行い、そこから全体の構図、イメージを膨らませていく。
▲丸ノミやすくい刀を使って削りかすを残さないように彫っていく。
▲僧の表情にもそれぞれ職人の個性がでる。
▲寺の欄間の彫刻には製作に3年を要した。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)