どうすれば効率よく流れるか 経験と想像力が大事やな
鉄を高温で溶かし、型に入れ、冷え固まらせてできる鋳物(いもの)。鋳物のもととなる型をつくる「造型」、1600度にもなる溶けた金属を型に流し込む「鋳込み(いこみ)」などの工程に隠れてひっそりと重要な工程がある。溶けた金属をどこから流し込めば内部まで万遍なく行き渡らせ、ムラなく仕上がるかを考える「鋳造方案(ちゅうぞうほうあん)」と呼ばれる作業だ。
ここを誤ると、金属の入り方にムラができ、不良を引き起こす原因になる。コンピューターによるシミュレーションが普及した今も、複雑な形状になると藤井さんの出番だ。「どこからどう流すかは長年の経験と想像力が大事」。この道52年になる藤井さんは言う。
中学卒業後、静岡からやってきた。ときは集団就職の時代。10人を超える同期がいたが、灼熱の現場に音を上げ、5年経った頃に残ったのは藤井さんだけだった。夏場には一日3枚はTシャツを着替えると言う過酷な現場だ。今は機械化が進み危険な作業は格段に減った。それでも若い後輩たちに伝えることは「うちの現場で危ないって思ったらまず逃げること」。逃げ方ひとつにも「想像力がとわれる」という。後輩たちの動きや段取りを見て気になったところについては「俺だったらこうやる」とアドバイスをするが押し付けはしない。「自分で気づくことが大事だから」だ。
鋳物造りの技術を極めるだけが仕事だとは思っていない。どうすればやりやすくなるか、どうすれば無駄なく楽に後工程にまわせるか。「過酷な現場やったから昔からそんなことばっかり考えてやってきたかなぁ」。鋳物一筋52年。そう語る藤井さんの目はどこか楽しげだ。
▲周囲に神経を配りながらも穏やかな笑顔を絶やさない藤井氏。
▲「ちょっとビール飲んだらもっとでてくるねんけどな」と見せてくれた火傷の跡。
▲溶けた金属を「取鍋(とりべ)」に受ける。
▲溶けた高温の金属を運ぶ。安全を期すため作業は3人がかりだ。
▲鋳物の表面をなめらかにする「途型剤(とかたざい)」をつけたあと、溶剤のアルコールを飛ばすため着火し乾燥させる。
▲クレーンを使って上下の型を慎重に合わせる。
▲型に湯を流し込んだ後は冷え固まるまで1日置く。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)