先代は生き方や経営を背中で教えてくれた
「お前が考えてやる限り、責任持ってやりきれ」
大学を出て商社に就職し、4年後に父の会社・浜正機工に入りました。1992年、26歳のときです。当社は伝導機器、機械工具の専門商社。前職も同じ商社とはいえ、扱う商材が異なるので白紙のスタートです。ところが、与えられた役職は常務取締役。年長者も含め、経営陣以外のすべての人が部下になりました。「二代目はどんなやつや」という目で見られるから、弱音も愚痴もはけない。入社後に500円玉大の円形脱毛症が6つでき、1年ほど消えませんでした。
先代はそんな私に「ああしろ、こうしろ」とは言わず、生き方や経営を背中で教えてくれました。例えば社内のゴルフコンペで先代が商品をもらったとき、「お前のお父さん、入院しとったな。これもっていったり」と社員を気遣うんです。仕事に対してはむちゃくちゃ厳しく、それ以外はむちゃくちゃ優しい。そんな姿勢から社員との接し方を学びました。
先代は高度成長の波に乗り会社の基盤を築いてきました。では、自分は二代目として何ができるか。そう考え、1996年、日系製造業の進出が加速していたタイに現地法人を設立しました。ところが最初の5年間は赤字続き。普通なら横やりを入れたくなるところ、先代は「やめろ」とは一切言わなかった。「お前が考えてやる限り、責任持ってやりきれ」と。任せてくれたおかげで窮地を脱し、いまや海外事業部は当社一の稼ぎ頭に成長しました。
事業承継で最も大切なのは、〝二代目が社員から信用を得ること〟です。そのためには、先代が二代目に権限を与え、チャレンジさせないといけない。私の場合は海外事業の成功体験を積ませてもらったことで、番頭さんや社員から「この二代目なら大丈夫やろ」と信用を得ることができたと思います。
親父が残してくれた魂の言葉「貧すれば鈍する」
2003年に代表取締役社長に就任。その3年後、先代は亡くなりました。他界したことで、生前に耳にタコができるほど聞かされてきた言葉が心に残りました。中でも最近とくに思い出すのが「貧すれば鈍する」という言葉。この世界不況で当社も打撃を受けましたが、この言葉を何度もつぶやきながら「焦るな。値下げ競争に巻き込まれるな」と経営の舵取りを見誤らないようにしています。「先代やったらどう判断するか」。親父が残してくれた言葉を胸に、常に最善の経営策を模索しています。
浜正機工株式会社
代表取締役社長 浜口 隆之
ギアモーターや減速機、ベアリング、空圧機器を主力にクリーンルーム用品から物流・搬送機器まで幅広い商材を扱う伝導機器、機械工具の専門商社。9つの関係会社の中にはメーカーもあり、オリジナルブランドの商材も扱う。早期にアジアに進出し、現在タイに1拠点、中国に2拠点展開。アジアに出た日系企業の工場操業を支援している。