Bplatz press

経営者の最大の使命は存続なり

2010.04.10

会社を支えている人たちの存在を実感した祖父の告別式

当社の創業は1922年。私の祖父が帽子の卸売業者として創業し、以来90年近くにわたってこの業界を牽引してきました。現在は小売業にも進出し、全国に約40店舗を展開しています。

私自身も昔からファッションには興味はありましたが、小さい頃から従兄弟が会社を継ぐと思っていたので、自分が社長になるとは全く考えてもいませんでした。大学卒業後、東京でアパレルメーカーの営業の仕事をしていたのですが、社会人になって3年目くらいのときに父から言われたのが「会社を辞めてうちに来い」。正直戸惑いました。就職した会社とは家業は継がない約束で入社したし、心の準備もできてない。結局、1年間悩んだ挙句、ある思い出がきっかけで父の会社に入社することを決意しました。

それは高校3年のときに参列した祖父のお葬式。大きな式で、駅から斎場まで大勢の社員の方々が参列していた。それを目の当たりにし、「僕らの家族はこの人たちに支えられてきたんや。会社は継がへんけど、将来何かのかたちで恩返しがしたい」と思ったことを思い出したんです。「じいさんがうちに来いと言ってんねんな。これは俺の天命や」と。その思いが最終的な引き金となり、1994年に入社しました。

「トップの意志」以上には、会社は成長しない

入社はしたものの、歴史がある会社だけに周囲は全員先輩です。長年、現場でたたき上げてきた人に認めてもらうためには、実績を出すしかない。そこで私が考えたのが小売業への進出です。当時、帽子の小売で多店舗展開している例はありませんでした。「成功したら社内外に認められる。失敗したら自分で責任とったらいい」。そう腹をくくり、父に相談すると「やってみろ」とゴーサイン。

しかし、奮起してプロジェクトに着手したものの、なかなか同意や協力を得にくかったんです。1999年に原宿に初の直営店「帽子屋OVERRIDE9999」を出店。2年間で何とか軌道に乗せ、次第に社員の協力も得やすくなりました。そんな形でいろんな新しいことにチャレンジをしてきましたが、打率で言えば3割というところ。そうこうしているうちに少しずつ認められ、四代目に就任して5年。会長にはほとんどのことを任せてもらっています。

今でも昔からいる社員と意見がぶつかることもありますが、これも事業を承継したものの宿命だと受け止めています。社長が意志を持たないと会社は動きません。経営者の想像しているゴール以上には発展しない。「どれだけ豊かに想像し、意志を持って新たな会社を創造できるか」。それを社員に伝えていくのが経営者としての腕の見せ所です。

これまでの取り組みで、業界に〝栗原〟の名をある程度広めることができたと自負しています。次の目標は、〝日本の栗原から世界のKURIHARA〟に飛躍させること。そして世の中に必要とされる会社にするのが目標です。

街を歩いて時代の先を読む、そして行動する

父が立ち上げた会社を私の兄が継ぎ、その後は兄の息子に事業承継することになっていました。ところが、彼らが大手企業に就職してしまい、兄から「息子を継がせるのはあきらめた。社長をやってくれ」と切り出され、私が三代目として経営を引き継ぐことになったのです。

私が社長に就任した当時の課題のひとつが東京進出。「渋カジ」スタイルが大流行した時代です。東京の街を歩きながら、ポロシャツにジーンズの若者がかぶる帽子は野球帽だ、それもメジャーリーグだと確信し、すぐにライセンス契約を結び、野球帽を主力とした商品展開を業界に先駆けて行いました。これが若い男性のファッション文化に帽子というアイテムが取り入れられたキッカケになりました。そのときも息子の世代がまさにターゲットだったこともあり、当時東京の大学に進学していた彼の意見はずいぶん参考になりました。

タイプは正反対。でも経営哲学は継承されている

当社のような業歴が長い会社の世代交代では、新社長と古参社員との対立が少なくありません。新社長が事業を立ち上げても、古い考えの生え抜き社員が反対する。よく聞く話です。四代目が入社したときは、彼が小売業への新規参入を企画して社員からの反発に合いました。実は私は過去に一度、東京に直営店を出して失敗しています。だから私も内心、「難しいかもしれん」と感じました。でも彼の強い決意を感じたので、「懸命に努力する限りやらさなアカン」と、何も言わずすべてを任せました。結果的に成功し、いまや小売業が当社の売上げの3割を占めています。卸の業態だけでは業績が先細りすることが見えていただけに、小売りが軌道に乗り始めたことで、社員の見方も変わりました。

私と社長の経営スタイルは対照的です。私は「よっしゃ、いてまえ」と大胆に行動を起こすタイプですが、社長は慎重派。石橋を何度も叩き、これで大丈夫と納得してようやく動き出す。論理的に筋道を立てて考えているからこそ、いまでは安心して会社運営を任せることができているのかもしれません。

経営者は常に前にアンテナを張り、新たなトレンドをいち早く感知し、先手を打つ必要があります。そのためにも経営者にとって最も必要なものは意欲。意欲さえあればなんとかなる。その考え方は四代目社長にもしっかり継承されているようです。社長が進める新たな栗原ブランドの創造に期待したいですね。

株式会社栗原

代表取締役社長 栗原 亮/代表取締役会長 栗原 裕

http://www.kurihara-corp.com/

1922年に帽子の卸売業としてスタート。現在は小売業にも進出して直営店を全国に約40店舗展開している。直営店舗で顧客の好みを取り込み、帽子のデザイン企画から生産まで一貫した仕組みを構築しているのが強み。店舗開発やブランド戦略でも業界で一目を置かれる存在だ。