サラリーマンから後継者に 日々たくましさ増す娘婿
7年前、先代社長が病に倒れた。
長期の入院を余儀なくされ、急きょ後を継いだのが妻の石原社長。それまでも社内事務は一手に担っていたが、会社の顔として外に出向いていくことには不慣れだった。
「先代が豪快な性格だったこともあり、右も左もわからない女性の私は甘くみられているような気もして」。頼りにしていた社員とも相談し、“指名”したのが、娘婿の井上氏。生半可な気持ちで受けられる話ではなく逡巡したが「深く考えてもしょうがない」と井上氏は覚悟を決めた。
前職は、インテリアメーカーの営業マン。中間管理職として上司と部下の狭間でサラリーマンゆえのしんどさも味わってきた。入社後、自分より年齢が上の先輩を部下として使う立場になにより戸惑った。「上司のひと言に反発したサラリーマン時代の自分を想像して、相手の反応ばかりを気にしていた」という。
だが同業者の組合の集まりに参加し、積極的にコミュニケーションをとるうちに相談したり、刺激しあえる仲間ができ自信がついていった。「在庫をどれだけ抑えられるかで利益が大きく変わってくる」と、部下に厳しく臨む姿も板についてきた。
化粧品雑貨業界は他業種からの参入も多く、ますます競争が激化している。現在、力を注ぐのが海外マーケット。東南アジアの各国に出向き商談をまとめ、中国の合弁工場ではコストの交渉を粘り強く進める。「交渉ごとを任せられることが何より頼もしい」と石原社長。
井上氏夫婦は石原社長と同居しているため、家に帰ってからもついつい仕事の話になるという。「私の愚痴も聞いてもらえる。言い返してきますけどね(笑)」と石原社長。「でも実の母に言い返すように感情的になることはない」。
経営者と後継者。母と娘婿という距離感がちょうどいいのかもしれない。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)
株式会社石原商店
代表取締役社長 石原 かをる氏 / 専務執行役員 井上 宏和氏
http://www.ishihara-shoten.co.jp
事業内容:化粧用パフを中心に女性向けフェイス&ボディケアグッズを自社ブランド、OEMで製造販売している。