IT専門家が進言した「何より優先するのは全社員の理解」
婦人靴企画・小売として扱う製品の6割はヨーロッパを中心とした輸入物で「効率化を求める日本の工場では造れない、手の込んだパーツを生かした提案型商品」を得意としている。「売れ筋を追いかけない」をモットーとし、流行に左右されず、いつの時代でも一定の支持がある商品をそろえる。
生産から販売に至るまでのプロセスで、商品を管理するためのIT化を図りつつあるが、そこで重視してきたのは、「手間がかかっても顧客との対話を通してどのようなお客様がどのようなことを求めて商品を買って頂いたのかを情報として集め、在庫管理と商品開発に生かすこと」。
POSデータで得た数値情報を経営効率化に生かし、現場の負担も軽くすることを前提としたIT化とは相容れず、これまでシステムを構築するITベンダーと、ことあるごとにぶつかってきた。そこで、会社とベンダーの間に立ってベンダー選定のための提案依頼書をまとめる役割で呼ばれたのが服部氏だ。
多くの中小企業でIT化をサポートしてきた服部氏も、バーコードを一切使うことなく商品管理や購買傾向をつかもうとする林氏の考えに当初は戸惑ったという。
そこで、急いで依頼書をまとめる作業に入るよりも前に「IT化を実現するための考え方と進め方について社員全員で共通理解を図ることが必要」と進言。トップの思い、業界を取り巻く状況、ファッショントレンドを含め、部門ごとに全社員を対象にした研修を行い、考えの共有を図った。
依頼書をまとめる作業は当初予定の倍の2年を要したが、「いきなりIT化を図るより、なぜそれをやらなければいけないのかという思いが共有でき土台が整った」と林氏。現在、各店舗から集約される日報に細かく書き込まれた文字がその成果を物語っている。ベンダー選びは先延ばしにし、ひとまずITを使わないでできることに注力している。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)
株式会社ハヤシゴ
代表取締役 林 建次氏(写真左)/大阪産業創造館 経営相談室 コンサルタント 服部 繁一氏(写真右)
事業内容:婦人靴ファッション商品の企画販売、販促活動及び生活関連流通事業の推進。