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受け継いでほしいのは「従業員を食べさせていくという覚悟」

2011.12.08

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「先代から引き継いだのは技術と品質」。2代目の土井康巨氏はそう言い切る。同業他社で3年間修行したのち、消費財から精密機器まで幅広くメッキ加工を手がける土井鍍金に25歳で入社した。父であり現会長の昭忠氏はたたき上げの創業者で、康巨氏曰く「震え上がるほど厳しい人」。2007年に社長に就任した際、「お前の代になって『品質が落ちた』と客先から言われたら、お前も役員もクビや」と釘を刺された。

「私が厳しく言うのは激励のつもり。事業を継ぐだけなら簡単。後継者に受け継いでほしいのは、従業員を食べさせていくという覚悟だ」と会長は胸中を語る。高い技術力で顧客の信頼をつないできた先代だけに、品質が下がれば顧客が離れる現実を知り尽くしているのだ。

康巨氏が会社を継いだのは、景気が上向いていた時期。ところが、「来年は年間売上10億円をめざそう」と奮起した矢先、リーマンショックで受注が激減。「社員のリストラに賃金カット…。いい時期に社長に就いたと思ったら、1年後にどん底に落とされた」。会長と共に、設備投資やダラダラ残業の見直し、部署ごとで業者に頼んでいた修理を一括にまとめて出るお金を抑えるなど業務改善の徹底で危機を脱し、なんとか減収増益に転じた。

社長と会長は正反対の性格。「私は言うてみたら独裁者(笑)。でもこれからの時代、皆で知恵を寄せ合ってやっていかな生き残られへん。その点、彼は誰からも好かれるタイプ」と会長が言うように、康巨氏は従来のトップダウンではなく、ボトムアップの組織に再編するために、取締役を5名に増やし、財務状況も全社員に公開するなど全員経営に転換。営業体制も強化し、会社がめざすべき方向性を全社で共有する。

小学生の頃から、工場の作業を手伝っていたという康巨氏。家業を継ぐことには迷いはなかったが、「経営者がこんなにしんどい仕事だとは思ってなかった(笑)」と苦笑う。だが、その目には、先代が産み、育ててきた土井鍍金を、自分のスタイルで守り抜こうという覚悟が溢れている。

株式会社土井鍍金

代表取締役社長 土井 康巨氏(左)/代表取締役会長 土井 昭忠氏(右)

http://www.doi-mekki.co.jp/