ニッチを磨いて世界へ飛躍
日本シール株式会社(大阪市住之江区)は1922(大正11)年の設立以降、パイル織物加工品を製造販売している。社名のシールとは英語で「アザラシ」の意味で、光沢があるパイル織物をアザラシの毛皮になぞらえてつけられた。設立当初は車両用シート地のみを製造していたが、現在では、パイル織物の特殊な加工技術を強みに、さまざまな分野に進出している。
まず、車両用シート地関係では、鉄道省から納入業者の指定を受けたことを端緒として、現在のJR各社との取引につながっている。また、現在では、全国の鉄道会社やバス会社との取引があり、柄や素材、機能性などの顧客別オーダーに対応している。加えて、車両の座席に使用されるクッション材も手掛けてきた。
一方、59年に開発した「エチケットブラシ」は同社が商標登録を持つロングヒット商品だ。現在では、派生商品として生まれた、掃除機のノズルブラシや、エアコンのフィルター清掃ブラシといった家電製品の部品に関しては、国内外の大手メーカーが取引先として名を連ねている。このような部品は同じメーカーでも製品ごとに仕様は異なるが、技術部門の多品種小ロット対応や、営業部門のフットワークの軽さにより、新機種用部品の受注や新規取引先開拓に至っている。
加えて、同社ではヒット商品を開発するために月に一度、新製品会議を開催している。コンセプト提案から試作品の作製、モニター調査までを提案者が担当する。商品化にまで至ると報奨金が出る制度もある。こういった社内制度を整えることで、新たな商品を開発していこうという社員のモチベーションにもつながり、社員が自ら積極的に動く社風が形成されている。
さまざまな分野の製品開発に成功した秘訣(ひけつ)について、取締役社長の岡茂氏は『良心プラス知恵』という経営理念をベースに、「ニッチを磨いてきた成果だ」と話す。確かにいずれの製品においても、長年研鑽(けんさん)してきたパイル織物の加工技術を軸としたピンポイントな製品開発が顧客のニーズをつかんでいる。
今後は海外展開を強化していく方針だが、「日本で受け入れられてきたニッチなものづくり」という看板を強みに、世界にも市場を拡大していくに違いない。
(大阪産業創造館 プランナー 住友綾子)
▲日本シールの岡茂社長。海外企業へのアプローチも自ら積極的にこなす