産創館トピックス/講演録

≪講演録≫ネコを駅長にした立役者 ~社会に貢献し、人を幸せにする経営理念「忠恕」~

2015.02.02

たまちゃんとの出会い

続いて出て来たのが南海電鉄の貴志川線です。南海電鉄が3億の収入で5億の赤字を出していて、いろんな支援をお願いしていたのですが、みんな蹴られてしまい、廃業届を出したんです。そこで私どもにご依頼がきました。

「知ってもらう、乗ってもらう、住んでもらう」。まずここに鉄道があることが市民に忘れられていたんです。そこで「いちご電車」、「おもちゃ電車」、「たま電車」というユニークな電車を作って知っていただこうと考え、その他にも年間80件ものイベントを開催しています。

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事業がうまくいったのは我々の努力だけではありません。一番は濱口晃夫さんという方が代表をされている「貴志川線の未来をつくる会」ですね。「乗って残そう貴志川線」と6000人の市民が1000円ずつ出して手弁当で600万集めたんです。

お客様をいっぱいにしてくれると同時にプラットホームの清掃をしてくれたり、駅のトイレ掃除をしてくれたり、イベントをやるとなると積極的に手伝ってくれる。そして和歌山県、和歌山市、紀ノ川市の行政の皆さんも一体となって取り組んでくださっています。

2006年の4月1日。両備グループの和歌山電鐵として5時の始発に出発式をし、セレモニーが終わって後片付けをして本社に帰ろうとしたら、おばちゃんが駆けてきて「社長さん!たまちゃんが!たまちゃんが!」と。「猫の家が撤去されるから、どうにか貴志駅に置いて欲しい」と言うんです。困りました。

駅というのは公共の場ですから個人のペットを置くようにはできてない。弱ったなと思っていたら「社長さん。うちのたまちゃんはね、男の子なら300万もする三毛猫よ。女の子だけど100万円はする三毛猫だから」とおばちゃんが言ったんですよ。そこで私の遊び心に火がついちゃった(笑)。

私は代々ずっと紀州犬を飼っています。今でも品評会に出したら優勝します。その犬が11万円。血統書付きの天然記念物が11万円なのに、「捨て猫から生まれたという三毛猫が100万円?」と思って見に行ったんです。

すると、たまはキッと私をにらみつけました。「うわ、凄い子だ」と思った瞬間にね、人間の頭ってのは漫画みたいに電気がつくんですね、パッと。「おばちゃん。両備グループは甘くないからね。タダで置いてやる訳にはいかん。仕事してもらいますよ」。そう言うとおばちゃんは怒りました。「猫のたまに一体何の仕事ができるんですか?」と。「駅長をしてもらいます」。

また社長が物好きなことやって…と、スーっとうちの専務が遠ざかって行っていましたが、「猫のたまを駅長にするから。制服、制帽を用意するように」と命じました。

それから8ヶ月、その年の12月になってやっと小さな帽子を持ってきました。カレンダーをめくってみたら翌年1月の5日しか予定が空いてる日がなかった。そこで、インターネットで「駅長たま任命式」と情報を流しました。地域の方に、「これは個人のペットとして駅にいるのではありませんよ、駅長としているんですよ」と伝える意味でね。

しかし当日は、テレビカメラが6局入って、電車を降りた瞬間にフラッシュがパパパパパパと。それから共同記者会見になって、東京から田舎の鉄道の田舎の駅の駅長就任の取材に来た女性キャスターが「なんで猫を駅長にしたんですか?」と聞くわけです。「猫の駅長に何の駅長業務ができるんでしょうか?所詮猫でしょ、遊びでしょ」と。

私はまた頭の中にパッと電気がついて、平然とした顔でこう言いました。「たま駅長の主たる業務は客招きです」と招き猫の格好をしました。そしたら、その女性キャスターも他局のカメラさんもワッハッハと笑って、300人くらい集まってる人たちも全員が大笑いしたんです。それが全国放送のニュースでバーっと放映されて、一気に有名になりました。

たまちゃんは翌日から本当に勤務に就いたんです。朝の6時から夕方の5時まで帽子をかぶって改札台に登ってお客様のお見送りをし、お迎えをし、電車が来ないときはプラットホームの見回りをして。その姿がインターネット、マスコミでもって全世界に報道されたんです。

その効果もあって去年だけで香港から2万6千人に来ていただけました。1年でうちの課長になったのはこの子だけです。スーパー駅長として課長職になりました。そしたら和歌山県の仁坂吉伸知事が、11億円の経済効果があったということで「勲功爵」という名誉県民に匹敵するものをくださった。

ちなみに、たまの前の和歌山県の名誉県民は松下幸之助さんです。あまりにも功績が大きいということで執行役員になりました。それでたまに役員報酬をあげるって言ってもいらないっていうんですね(笑)。それじゃあと作ってあげたのが世界でただ一つのネコの顔をした桧皮葺の駅舎です。今は部下のニタマちゃんが駅長代行になり、たまちゃんは社長代理になりました。

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「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」

事業再生は、内部では厳しいことが多々でも、外に対しては楽しくみせないと人が寄ってこない。「うちの会社は潰れそうで、お涙頂戴でございます」なんて悲惨な感じで言って、コスト削減コスト削減では誰も来ませんよ。ですからやっぱり少しでも楽しくなるよう演出していく。

私はたまちゃんを利用して和歌山電鐵の再建をしようなんて考えたことは一回もありません。今でもそうです。ただ、たまちゃんが住むとこがなくなると言うので貴志駅に置いてあげよう。貴志駅に置いてあげられるように駅長をしてもらおうと閃いただけです。全て「忠恕」の精神で考え、行っただけだと思っています。

人間というのは「儲けよう」だけでは決してうまくいかない。「セレンディピティ」というんですけども、目の前にチャンスが来るんですね。それが見える人と見えない人がいる。チャンスを察知して活かせるかどうかなんです。たまちゃんを救ってあげようと思ったら、結果として、逆にたまちゃんに救われたという、たまたまのお話です(笑)。

経営のあり方というのは千差万別ですが、私どもは「ネクスト100年」を掲げ、これからの100年もこの「忠恕(ちゅうじょ)=真心からの思いやり」をもって、お客様から言われたことには決して取組む前から「ノー」と言わないようにと社員、幹部に口酸っぱくして言っています。

一つひとつのことを大事に考えていくと思わぬ発展をしていくことがいっぱいあるんです。皆さん方も毎日毎日の中に宝の山がいっぱいあると思います。それに気付いて一生懸命やるかどうか。そして「知行」です。「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」。これは工学博士の五日市剛さんの言葉ですが、会社というのはすぐやらないからうまくいかないんですね。そして途中でやめちゃうからダメになるんです。出来るまで努力していれば必ず出来るようになると思っています。
ご清聴ありがとうございました。

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両備グループ

代表 兼 CEO

小嶋 光信氏