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【長編】常識に抗い、下請けの街からブランドを発信

2014.09.09

>>> 実際にどのように売れていったんですか?

最初は24時間テレビ通販の番組のQVCに出させてもらいました。生放送です。はじめは大阪のイメージを出したら売れへんかなと思って標準語でしゃべっていましたね。でも、それで問い合わせが会社に来るようになって。こうしてスポットライトが当たれば人は見てくれるんやと。みこしに担がれてでもものを売りにいかなあかんのやと思いました。

そのころにおこがましいけれども、僕は客を選ぶ、売りたくないところには売らない、という宣言をしました。そんなことを決めてからです。よくなりだしたのは。
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テレビに出たことが実績になって今度はカタログ通販の千趣会に呼ばれまして。そのとき、僕はカタログに掲載するときの誌面案まで自分で描いて持って行きました。僕の顔を載せて、工程やコーディネートも入れた誌面です。そうしたら担当者に「高本さん、熱いな」と喜ばれて。そこで売れたら今度はディノスです。「外国製のコンフォートシューズは1万円やのに、リゲッタは6000円を切る」ということですごく気に入られて。一番注文の取れる番組にトライしたら、7分間のオンエアで5980円のシューズが9千足売れたんです。ディノスでも始まって以来の記録だと大騒ぎになって。その後も紙、ネット、テレビと毎年のように取り上げていただいて、お客様も、サブリミナル効果で、この商品どこかで見たぞ、と刷り込まれていくんでしょうね。どんどん売れるようになっていきました。中心の価格帯は5980円で粗利は20%くらいです。10年前に3億円だった売上げは毎年120%ずつ伸びていて、今年は20億円に達する勢いです。

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>>> 今、企画のスタッフはどのくらいおられるのでしょうか。

多くの靴メーカーは企画部門を外部に任せているのですが、うちはデザイナーもパタンナーもサンプルもすべて自社の社員でやっており、今8人います。国内の靴メーカーでこれだけ置いているところはないでしょう。企画部門がしっかりある会社はこれからも生き残れると思っています。

僕1人にスポットライトが当たるんじゃなくて会社全体にあたるように今いろいろ取り組んでいます。働くモチベーションってなんやろということからみなに考えてもらって、それぞれが考える理念を紙に書き出してもらっています。決算書もすべて開示していて、僕がどれだけ報酬もらっているかまでオープンにしています。粗利20%ですから、まだ儲かる会社にはなっていませんが。儲からん会社があってもええやんと。それよりも心でつながって、長く続けられるんやったらそのほうが幸せちゃうかなと思っています。昔、家族5人でやってた頃から、今は70人超えています。この社員たちを一生幸せにしたいですね。そのためには託児所もつくりたいと思っています。

今あるブランドはもっと進化できるし、新たに考えているブランドも山ほどあります。ジョギングスニーカーもやりたいし、介護が必要なおじいちゃんおばあちゃんが履きやすい、歩きやすい靴ももうじき出来上がります。つくりたいではなく、つくると決めたら絶対につくれるんです。

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>>> 今は商品を真似される側になっているのではないでしょうか。

それは率直にうれしいです。実は、昔真似をしたことがありまして(笑)。ある会社の靴に感銘受けて、もちろんそっくりそのままではなかったのですが。そのメーカーから内容証明郵便が届いて「商品を引き下げなさい」と。そのときにめちゃくちゃ落ち込みましてね。人の真似することの浅ましさを感じて、真似られる側にまわったほうがええわ、と。それから特許や知的財産の勉強を始めました。街を歩いていて自分らの商品のコピーを見つけると心臓バクバクします。でもこれまでコピーをしたところに警告を送るだけで、示談も含めて雑収入が1千万円入ってきました。自分らで腹くくってええもんつくったらええのに、って思いますが、さびしいですね。ビルケンシュトックやクロックスはイノベーション起こしているし、靴業界はまだまだチャンスはあると思っています。

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―made in 大阪ならぬ、made in 生野ですね。

僕らは結局何をしたかというと器だけ変えたんです。生野のオペレーションは変えないし意識も変えていません。ただこの器に盛ってくださいということだけお願いしている。でも器って重要な要素なんです。器しだいできれいに見えますから。

25歳の頃はこの街で新しいデザインを職人さんのところへ持っていっても、そんなんでけへん、と相手にしてもらえなかったものです。「にいちゃん、他のメーカーの仕事があんねん」って。「いやでもいまのままやったら仕事なくなりますよ」って返しましたが、相手にしたら生意気な若造ですよね。それが今になって、「兄ちゃんの言ってたこと合うてたなあ」と言われます。嫌いな街やけどなんとかしたいですね。メイドイン大阪、生野って胸張って言えるようにしたいんです。この街には400人のおじちゃん、おばちゃんが裁断、ミシン、糊貼りの職人として働いていますから。でも後継者がいません。だから3年後くらいには準備しないといかんなと考えているところです。会社一丸となって自分らで現場作ろう、と。引退しはった職人さんに教えに来てもらったらええやないですか。そして、若いもんがあふれる現場をつくりたいですね。そして60歳になったら、この町に靴づくりの学校をつくるのが夢なんです。

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福山裁断という70くらいのおっちゃん、おばちゃんでやっている裁断所が近所にあります。重労働で腰もひざもぼろぼろです。うちがリゲッタで伸び始めた頃に仕事のお付き合いが始まりました。しばらくしたら福山さんから年末に胡蝶蘭が届いたんです。びっくりしてチャリンコで訪ねていって、話を聞くと「高本さんとこの仕事を受けるようになってから缶ビールが1日2本飲めるようになった。今までは発泡酒1本やったんです。かつては売上げゼロ円の月もあって、孫が来ても小遣いも渡されへんかったのに、今では渡せるようになった」と喜んでくださっている。そのおっちゃんが今では毎月うちの若手連れて食事会までしてくれているんです。

将来は、この街の生産量を減らすことなく中国製でデザインに特化したブランドを作ろうと考えています。そこで出た利益をプールして、職人さんの安い工賃を少しでも上げたいなと思っているんです。押さえつけてやらせるのではなく、気持ちよく働いてもらえるようにしたいですよね。最後に花を持たせてやりたいな、と。

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(取材・文/山口裕史)

株式会社 RegettaCanoe(リゲッタカヌー)

代表取締役社長

高本 泰朗(やすお)氏

http://regettacanoe.com/

シューズ・サンダルの卸と小売(国内・海外)。