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宿命を断ち、唯一無二で勝負 コンフォートシューズでNo.1に

2014.09.09

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イチキュッパ(1980円)の街。大阪・生野で靴製造にかかわる人たちは量産品を安くつくることで生き抜いてきた生業の地をこう表現しながらもその宿命を受け入れてきた。父が興した下請け工場にデザイン担当で入社した高本氏もその1人だ。だが、25歳の時に厳しい現実を突きつけられる。親会社がすべての生産を中国に移すと通告してきたのだ。業界に残るか、離れるか。悩み抜いて出した答えは「自社製品で勝負すること」だった。

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組合の展示会に、最新の流行をとりいれたデザインの靴を3980円で出展した。数ヵ月後そっくりな靴を他メーカーが1980円で定番商品化しているのを見つけた。新しいことをやるたび先輩の業者に「出しゃばるな」と頭を抑えられた。問屋に何度も頭を下げ、限界まで加工賃を切り詰めてやっと仕事が取れた。「努力しても無駄な業界。この街が大嫌いになった」。それでも高本氏は投げやりにならなかった。「文句ばかり言うてる自分かて、ほんまに独自の商品で勝負してへんのちゃうか」と。

介護用品、玩具など異業種の展示会に足を運び、機能やデザインの引き出しを増やした。そして誕生したのが下駄をイメージした「リゲッタ」。義肢の人向けに歩きやすくした靴底に疲れの出にくいインソールを組み合わせ、ヨーロッパを訪ねた時に印象に残っていたブランドの丸いデザインを融合した。「既存のものを組み合わせることで新しくなる。そこに日本古来の履き物の下駄をイメージさせることでストーリーを加えた」。

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「これでだめなら会社を畳む」。退路を断って出展した生活雑貨の展示会、ギフトショーでリゲッタはバイヤーから注目を集めた。「靴屋自ら機能を考え、日本製でこの価格(5980円)なら当たる」。テレビ通販では7分で9千足が売れた。大きな自信になり「価値を理解してくれる人だけに売る」戦略へと転換した。現在、社内の企画担当社員は8人。「唯一無二」にこだわり10年前に3億円だった売上げは今20億円に達しようとしている。

リゲッタが売れ始めて裁断の賃加工を依頼するようになった老夫婦からほどなく会社に胡蝶蘭が届いた。理由を尋ねると「おかげで飲める酒が発泡酒からビールに替わり、孫に小遣いもあげられるようになったから」と言う。職人の高齢化が進んでいる生野。後継者もいない。「自分たちが儲けるよりもまず産地を守ることが大切。加工賃も増やしていきたいし、若いやつが先輩の職人から技術を学ぶ職場もつくりたい」と高本氏。「大嫌いだった街」は今「大切にしたい街」に変わった。

▼紙面では紹介しきれなかったロングインタビューはこちらから
「常識に抗い、下請けの街からブランドを発信」
https://bplatz.sansokan.jp/archives/3096

壁いっぱいに貼られている靴づくりへの想い。社員一人ひとりが考える。

地域の靴職人の分業でつくりあげる。まさにmade in 生野。

社内の試作用の工房。

(取材・文/山口裕史)

株式会社 RegettaCanoe(リゲッタカヌー)

代表取締役社長

高本 泰朗(やすお)氏

http://regettacanoe.com/

従業員数/72名
事業内容/シューズ・サンダルの卸と小売り(国内・海外)