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「逃げないこと」 不安と向き合い四代目としての道を切り拓く

2013.01.10

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給与カットで知った社員の思い

中山工務店のように自社で大工を雇用している工務店は珍しい。外部の業者を寄せ集めるのではなく、自社の大工が一つの建築物を建築から修繕まで一貫して担当することで、地域からの信頼を得てきた。

中山氏が四代目として社長を先代から引き継いだのは2000年。不景気で仕事量が減り、悶々とした気持ちのまま毎日を過ごしていた。苦境を乗り切るため、まず自分の給与を下げ、社員にも減給をのんでもらおうと考えた。だが、税理士に相談すると「中小企業の社長は、給料がそのまま融資の個人保証額になる。辛くても自分の給料は落とすな」と諭された。

申し訳ない気持ちで、社員一人ひとりと面談をして給与カットの説明をした。ある大工は「今までずいぶん良くしてもらった。もっと落としてくれてもええんやで」と言ってくれた。中山氏はその話を思い出すと今でも涙が出てくる。「子が親を選ばれへんように、社員も社長を選ばれへん。もう二度とこんな思いをさせたらあかん」と自分を戒めた。

 

経営理念の作成でスイッチ入る

社長就任から3年が経った頃、異業種交流会に参加し、経営理念を作成する機会を得た。その時のことを中山氏は「自分の人生に大きなスイッチが入ったようだった」と振り返る。

中山氏は、2人の姉と10歳近く離れて生まれてきた待望の男の子で、「産声を上げた時から跡継ぎとして育てられた」。物心がついた頃から「若」と呼ばれ、おのずと「周囲に迷惑をかけたらあかん」と他人の目ばかりが気になるようになっていた。入社してからも「四代目の自分でつぶすわけにはいかないという気持ちが強く、倒産しないようにということばかり考えていた」という。

出来上がった経営理念は「自信と誇りを生みだし、期待できる未来を創り出す」。それまで漠然とした不安にさいなまれていたが、「自分が不安に思っていることを明確にし、どうアクションを起こせば不安が消えるのか、仮説を立てながら行動を起こせるようになった」と振り返る。

 

「中山が中山らしくあるために」

リーマンショックの後、社員に広がった不安を払拭するためにこう呼びかけた。「解雇もしないし給料もカットしない。だから目の前の仕事に全力で向き合ってほしい」。この呼びかけで、据え付け家具の製作、網戸の張り替え、太陽光パネルの設置など大工たちが空いた時間を使って新たなスキルを身につけようと自ら動き始めた。あらゆることをこなす大工が育ったことで、何でも任せられる工務店と口コミが広がった。

2009年に230件だった工事物件数はその後伸び続け、昨年は350件を超えた。中でも地域の人からの紹介による新規物件が着実に増えている。だがいいことずくめではない。ひいきにしてもらっているお得意さんから「中山が中山でなくなった」と厳しい言葉をかけられた。「工事が急激に増え、従業員一人ひとりへの目配りができていなかった」と反省。「現場力こそ営業力」と中山氏自身が若手社員を直接教育している。

創業106年。次の100年をめざし「中山が中山らしくあるため」に「長い歴史でお世話になった方々に恩返しをしていくこと、人と心でお付き合いすること、そして逃げないこと」を改めて肝に銘じている。

 

 

株式会社中山工務店

代表取締役

中山 靖氏

http://www.nakayama-cons.co.jp/

創業/1907年 従業員数/10名
事業内容/住宅、工場、倉庫、社寺などの建築を手掛け、地域の仕事が7〜8割を占める。
創業以来、木材を数年陰干ししてから建材に使用するなど多くのこだわりを持っている。