商品開発/新事業

井ノ上姉妹が手がける「新しいホテル」の魅力とは?「ホテルモーニングボックス大阪心斎橋」誕生の舞台裏

2023.09.26

知人を通して井ノ上姉妹のもとに、「ホテルの経営を任せたい」との打診が舞い込んだのは2019年初頭のことだ。2人とも偶然前職を辞めていたタイミングだったこともあり、2人手を携えて未知のホテル業界に挑むことにした。

心斎橋に立地するホテルは、当初1階に雀荘と喫茶店が入り、10階建て180室のうち2フロア90室がカプセルホテルというしつらえで、ビジネスマンの利用が大半だった。「遅くまで飲んだサラリーマンがタクシーで帰るよりは安上がりだからと利用するケースも多かったと聞いています」と泰栄氏は言う。

代表取締役 支配人 井ノ上 泰栄氏

まず2人が取り組んだのが改装だ。化粧品の企画開発の仕事をしていた泰栄氏は出張の機会が多く、「1人さびしく過ごすホテルに物足りなさを感じていた」という。そこで、掲げたコンセプトがまた帰ってきたくなるような「大阪のセカンドホーム」。

前職でパッケージやディスプレイをデザインしていた智里氏がデザインを担当し、ホテル全体を家で過ごすように寛げるよう1、2階は人の気配が感じられるカフェラウンジスペースとし、客室は温かみのある色調に変えた。

19年秋に改装を終え、すこしずつ軌道に乗ってきた矢先にコロナ禍が襲う。人との間隔が密になるカプセルフロアは休業せざるをえなくなり、客室フロアだけを稼働した。開店と休業の状態を繰り返し強いられるなかで、「ホテルの果たす役割は何かを考えるきっかけにもなった」と泰栄氏は振り返る。出した答えは「遠方からだけでなく近隣の方が大阪の醍醐味を感じられるような場所」だ。

そして昨年秋、ホテルの看板でもあったカプセルホテル90室がある2フロアを12室の客室に改装するという大きな賭けに出る。「コロナ禍がなければそんな決断はありえなかった。だからこそ自分たちのやりたいことを思い切ってやろうと思いました」。

任された智里氏がデザインを考えるにあたってめざしたのが「人にも地球にも優しいホテル」だ。
「これからのホテルに求められるものとして考えたときに健康や暮らす環境のことが大事だと考えています。部屋の素材にはできるだけ自然素材や再生素材を使用し、室内は大阪メイドのインテリアを採用。また自分たちのホテルだからこそできる表現として、モノを循環させる仕組みを作りたかった」。

「それぞれの部屋に1点もののアンティーク家具をそろえ、宿泊しながら蚤の市に来ているような感覚を味わってもらう。そして、実際に使ってみて気に入れば買うことができます。時代や国が違うものがホテルに辿り着き使われ、またお客さまの手に渡っていくというモノを循環させる仕組みをつくりました」。

取締役 副支配人/アートディレクター 井ノ上 智里氏

行動制限が解除されて以降、ようやくにぎわいが戻ってきた。利用客の年齢層は大きく若返り、外国人、女性客の数も増えた。

智里氏は泰栄氏のことを「決断力に優れている」と感嘆し、泰栄氏は智里氏のことを「センスが抜群」と称える。姉妹相補いながらめざす新しいホテルづくりの挑戦はこれからが本番だ。

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

サンプレ株式会社(ホテルモーニングボックス大阪心斎橋)

代表取締役 支配人 井ノ上 泰栄氏
取締役 副支配人 アートディレクター 井ノ上 智里氏

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事業内容/ホテルの運営