高品質なものをリーズナブルに、製造小売に力を入れるスーパーマーケット「モリタ屋」
モリタ屋は大阪府高槻市に6店舗(東大阪市に1店舗)を展開するスーパーマーケット。前身は精肉店。明治2年、京都に開業した日本最初の牛肉屋「盛牛舎 森田」が原点である。株式会社ミートモリタ屋として大阪府高槻市で会社設立してから今年で51年を迎える。
同社は、自分たちの業態を“製造小売業”と呼んでいる。仕入れて売るだけではなく、自社で開発・企画したオリジナルブランドに力を入れているからだ。背景にあるのは“食材をあますことなく生かす”精神。京都食肉市場で牛肉を直接買い付ける“買参権”を持って直接セリで牛肉を買い付ける。「牛一頭まるごと、良い肉をあますことなく消費者に提供したいとの考えは今も昔も変わりません」。と代表の吉岡氏。同社の製造小売は肉の部位をすべて生かすためのカレー、ハンバーグ、コロッケ、ミンチカツなどのミートデリカから始まった。
それから約30年。モリタ屋は製造小売の商品を戦略的に強化し始めた。「販売力の強い大手スーパーと同じものを売っていたら負ける。差別化するためには製造加工という手間を加えて付加価値を高めなければ」とミートデリカからベーカリー、スイーツへと商品ラインを広げている。
たとえばベーカリーは冷凍生地ではなく、粉から生地を仕込んで焼き上げるまでの全工程を一貫して行うスクラッチ製法をとっている。「粉から仕込んだものは、冷凍生地には出せないふっくら感があります」と仕上がりに自信を持つ。また、『ひよっこ』とネーミングしたプリンは、味とパッケージ、買いやすい価格帯などから2022年のスーパーマーケットトレードショーのお惣菜大賞スイーツ部門で入選した。昔から根強い人気を持つ定番の和牛カレー、和牛ビーフシチュー、牛肉のしぐれ煮などはもちろん、チーズ、牛乳、ジャム、味噌なども“モリタ屋オリジナル”として好評だ。
もうひとつ、重視しているのは“身体にいい安全なもの”を提供すること。そのため添加物はできるだけ抑えている。「たとえば食パンを購入していただくとわかりますが、うちのパンは消費期限を過ぎると“ちゃんと”カビが生えるんです」。食品として自然な状態であることを示す一例だ。
果物は青森から沖縄まで直接産地に行って買い付ける。重視するのは「除草剤を使用していないこと」と長く仕入れを担当してきた取締役の北中氏。美味しい実をつけるために生産者がどのように栽培しているのか、直接コミュニケーションをとって確かめている。
このような戦略もオリジナルブランドが定着するまでは苦戦を強いられた。材料を厳選していくと原価がかさみ販売価格が上がるため、“モリタ屋は周辺の店より値段が高い”というイメージがついたのだ。しかし吉岡氏は「決して安くはないが高品質であることを訴求することで、顧客に価格の妥当性を納得してもらいたい」。
最近では“モリタ屋はよそとは違う、ええもん売ってる”と言われるようになり、高槻市内でまだ出店していない地域の人たちから“うちの近所にも店を出してほしい”という声が届いている。
今後、同社にはスイーツに特化した製造小売店を出す計画がある。長く自社で培ってきた開発力と、バイヤーが足繁く産地に通って見つけ出した果物とのコラボレーションを商品化する。その店の方針も「高品質なものをリーズナブルな価格で」と吉岡氏。
「現代は飽食の時代でスーパーマーケットは飽和状態です。スーパーの総面積は増えていますが、数自体は減っている。それは大型のショッピングセンターが増えているということで、われわれのような中小規模のスーパーには厳しい環境です。そのためには新しい事業をつくっていかなければならない」。
精肉店からスーパーマーケットへ、そして製造小売業型のスーパーへ。さらには一部門に特化した製造小売店の出店を視野に入れ、時代の流れに合わせて業態を変えていく。「食材をあますことなく生かす」と「身体にいい安全なものを」という“モリタ屋らしさ”を貫きながら。
(取材・文/荒木さと子)
株式会社ミートモリタ屋
代表取締役社長 吉岡 登志夫氏
店舗運営部部長・取締役 北中 大輔氏
事業内容/食料品を中心としたスーパーマーケットチェーン、レストラン事業