味わいと歴史の融合 株式会社一創堂が創る大阪土産の魅力
一創堂が商品化した大阪土産にはしっかりとしたストーリーがある。「ちょろけんシリーズ」のちょろけんとは、江戸時代の大阪や京都で人家の門口に立って芸能を見せ、報酬を受ける門付け芸(かどづけげい)で人気を博した芸の名前が由来だ。「顔は帽子で隠し、体に描かれた顔はペロッと舌を出しています。関西弁の『ちょける』の語源になったともいわれています」と野杁氏。当時の風刺画をもとにかわいらしくゆるキャラ化した。
中に入れるお菓子も大阪産にこだわるつもりだったが、古くから大阪で作られていた名産のお菓子といえるものがあまりないことに気づいた。専門家に聞いてみると「大阪は天下の台所。全国の特産品の集散地だったからわざわざ作る必要もなかったのです」。
なるほど調べてみると土佐堀、阿波座などかつての船着き場に地名の名残がある。それならばと、高知県名産のいもけんぴが大阪に船で運ばれてきたイメージを、海を連想する塩味で表現し「ちょろけんぴ」として商品化。商品に込めた思いを西区にある土佐稲荷神社の神主に話すと、強く共感し奉納帯を付ける許可をくれた。
2020年2月に事業を本格稼働した直後にコロナ禍が襲った。賞味期限が迫る中、大量の在庫を自力で売り切るしか事業を継続できる道はなかった。普段から事業について相談していたメンターにアドバイスを求めると「できることはすべてやったか」と問われた。「ちょろけん」シリーズをSNSでアップしてくれた人たちに窮状を正直に伝え情報拡散の協力をお願いしたところ、今度は供給が間に合わない事態に。地獄と天国を味わった。
野杁氏には満を持してリリースしたい商品があった。2025年の大阪・関西万博に合わせて、世界に大阪のお菓子を発信しようと商標登録を済ませていた「大阪万福(おおさかばんぷく)シリーズ」だ。摂津の国出身と言われる招福の縁起人形・福助をキャラクターにし、懐かしいお菓子を現代風にアレンジして詰めた。
コロナ収束の兆しが見え始めていた2022年9月、O‐TEX事業の大規模展示会活用プログラムを利用して出展した「第3回ライフスタイル Week【関西】」でデビュー。「これまで接したことのなかった雑貨のバイヤーさんとつながることができたのが収穫でした」。それまでの駅、空港のルートに加え、ギフトショップ、温浴施設、コンビニなどに売り先が広がった。
元は大手化学メーカーで開発を担当していた野杁氏。ものづくりへの思いと門外漢ゆえの斬新な発想、そして持ち前のバイタリティで「大阪・関西万博で大阪万福を買いたいと言われるように育てていきたい」と力強く語る。
(取材・文/山口裕史)