ものづくり

働く三輪自転車が活躍する未来を後押し

2023.03.06

ドイツのベロタクシー、フランスのシクロポリタンに代表される三輪自転車タクシー。だれでも簡単に運転することができ、環境負荷の低い新しい近距離交通システムとして世界中で普及が進む。

堺市から「観光用の三輪自転車タクシーを開発したい」と、安全・快適な自転車機構の開発に取り組んできたケイズ技研に相談があったのは4年前のこと。自転車産業が古くから根付いてきた堺市が自転車で観光振興を図ろうと考えたのだ。

既存の三輪自転車の弱点をふまえ稼農氏がまず提案したのは「運転席を後ろに置くこと」そして「敷居をつくらず床を低くすること」だった。「パノラマで視界が開け、高齢者も乗り降りしやすい」と考えてのことだ。

ハンドルと前輪が離れてしまうことで生じやすくなる連動のブレを防ぐため、床の下を這うチェーンの構造に工夫を凝らし、最適な機構を適応して難題を解決した。その後自社での製造販売に向け、より運転しやすさを高めるために幅を約2割減らして1mとしながらタイヤを小径化することにより、ゆったりとした乗車スペースを確保したコンパクト設計の進化型が完成した。

初号試作車

MPU(Multi-Purpose Universal多目的汎用(だれもが活用できる)自転車)と名付けたのは、当初から観光以外に介護福祉用などにも用途を広げたいと考えたから。

また、積載荷重250㎏の重量物をどこへでも容易に運べる強みに着目し、人と物資搬送できるレスキュー車として自主防災用向けに開発中だ。「小型なのでクルマが通れない細い道や障害物を避けることができ、免許証不要で小回りが利くためだれでも運転できる、万能性を評価していただけるだろう」と話す。

O-TEXの事業を活用し、従来よりも小型タイプMPSの展示にアドバイザーから屋内用も開発してみてはどうかとアドバイスを受け、よりコンパクトな改良版を企画、試作図を作成中だ。

O-TEXの展示で、大手企業から、商業施設内で移動店舗として使えるといった提案も得ることができ、「私たちが想定していなかった活用法を知ることができた」と喜ぶ。

地球温暖化、高齢化……。世界規模で社会が直面する課題は排気ガスを出さず、手軽に誰でも乗れるMPUにとって追い風となりつつある。

「働く自転車としての需要は向こう数十年見込める」と確かな手ごたえを得ている稼農氏。「焦りたい気持ちはあるが急いで量産するよりもじっくりいいものをしっかり作っていきたい」と長い目で育てていこうとしている。

代表取締役 稼農 公也氏

(取材・文/山口裕史)

ケイズ技研株式会社

代表取締役

稼農 公也氏

http://www.kslabo.jp

事業内容/各種移動装置の企画・設計・製造