ヒナプロジェクトから世界へ!『小説家になろう』が切り拓く新たな読書体験
誰でも気軽に創作した文章を投稿することができ、読書を楽しめるWeb小説。その草分け的存在であり、日本最大規模を誇るのが、株式会社ヒナプロジェクトが運営する『小説家になろう』だ。登録者は220万人以上、作品数は90万を超え、月間PV25億以上という驚異的な影響力を持つ。「そもそもは、創業者でプログラマーの梅崎祐輔がWeb小説を読むのが好きだったこと。当時は個人サイトで発表する作者が多い中、書き手と読み手を結ぶプラットフォームがあればと考えました」と、開発のきっかけを語るのは梅崎氏とともに経営の指揮をとる共同代表の平井氏だ。
立ち上げ当初は、口コミで広がり“知る人ぞ知る”存在だったが、平井氏が加わった2009年頃から、同サイトの小説が数多く書籍化されるようになった。その後、小説を原作としたアニメなど他媒体への展開も急増し、加速度的な成長を遂げる。同サイト発の作品は「Re:ゼロから始める異世界生活」「ログ・ホライズン」「転生したらスライムだった件」など、枚挙にいとまがなく、「私たちでもすべてを把握しきれないくらい」と、平井氏は笑顔を見せる。他媒体での大ヒットが呼び水となり、“原作を読みたい!”と考えたファンたちが、同サイトを訪問。さらに、新たな創作者たちも参入することで、全体的にアクセスが伸びるという好循環を生み出している。
「Web小説 のメリットは、完全に自由であること。既存の枠にとらわれることなく、とにかく広がるところ」。書籍は、一定の読者が見込めなければ出版されないが、Webは万人受けを気にせず執筆に打ち込める。一方で、データ派の書き手に向けて、PV数やユニークユーザーを把握できる分析ツールも配置。それらを用いて作者たちはヒット作のストーリーやキャラクターなどを分析することが可能になった。分析した内容から「人気のストーリーや作品の構造」などを取り入れる“テンプレ化”した作品群が生み出されたことも、拡大を促進した要素のひとつ。書き手の敷居が下がり、読みやすさを求める読者のニーズにもマッチした。
同社は、隠れた名作の価値が認められる仕組みづくりなど、サイトの進化や改善に工夫を凝らすとともに、システムの堅守にも力を注ぐ。「みなさんの作品は大切な財産。何重にも保存しています」と、平井氏。開発のほとんどを自社で担う。現在、Web小説は、大手出版社などが参入する群雄割拠状態だが「ライバルではあるものの、業界を盛り上げていく仲間だと考えています」ときっぱり。今、この瞬間にも作家の卵たちが、ヒナになっている。
(取材・文/仲西俊光)