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社員の離反乗り越え、めざすは大家族のような会社

2022.02.08

木材リサイクルの会社を営む父親は高好氏にとって太陽のような存在だった。会社に足を運ぶと社員が父親を慕っている様子が手に取るようにわかった。「社長の仕事って楽しいんだな」。いつかは自分も大家族のような温かい会社を経営してみたいという思いが幼心に芽生えていた。

大学卒業後は、航空会社で地上職に就いた後、店頭でボディコスメを販売する仕事も経験。「いつか何かを始めたい」という気持ちを育んでいた。そんな思いを汲んでか、父親から「アンドリューのエッグタルト」のFC店を運営してみるかと声をかけられ、引き受けた。多角化を進める1事業で買収した一つにマカオ発祥のエッグタルト製造・販売会社があったのだ。

父親はオーナーとして、一切の経営を買収前から同じ社長に任せていたが諸事情によりグループ会社に移籍、その後は後任の社長に委ねていたが、ある時その社長も会社を去ってしまう。めずらしく両親が深刻に考え込む様子を見て、高好氏はいてもたってもいられなくなった。「私が社長をやる」。強く反対する両親を最後は押し切った。

代表取締役 高好 理紗氏

本部スタッフのいる本社に出勤すると違和感があった。以前から長時間残業が常態化し不満がくすぶっていたところへ「大家族の世界を思い描いて」入ってきた高好氏の浮きようは想像に難くない。

追い討ちをかけるように労働争議が起こった。闘争は1年間続き、事業も赤字に転落した。「出口の見えないトンネルにいるようだった」。話を聞いてくれる父が支えだった。だが、ある時家に帰って泣き叫ぶ高好氏に母親は冷静に言った。「自分が決めた道でしょう?」

道頓堀本店

本部スタッフをゼロから採用し直した。商品開発と情報発信に力を振り向ける余裕が出てきた。だが今度は財務面の一切を任せていた責任者と衝突。昨年4月に去っていった。「手は離しても目は離さない、ができていなかった」。再び組織づくりに着手した。現場と本部スタッフの給与体系を見直し、2人の店長に本部運営に携わってもらうことにした。

月1回の勉強会では経営理念である「おいしい笑顔とやさしい世界を拡げたい」、そして「海外からやってきたバームクーヘンやワッフルのように、エッグタルトも日本の文化にしたい、長く愛され続けるお菓子にしたい」という思いを絶えず伝えている。「わたしの思いを汲んで皆が頑張ってくれている。従業員には感謝しかない」と高好氏。

今年は道頓堀にある本店を改装し、気軽で身近な雰囲気の店に仕上げる。贈答用に使える本格的なタルトをセカンドブランドとして立ち上げる目標もスタッフと共有している。そこに、かつてすぐに泣いていた自分はいない。「もう一人ぼっちじゃない」と思えるからだ。「大家族のような会社」に一歩また一歩と近づきつつある。

(取材・文/山口裕史 写真/内山光)

ケンズパス株式会社

代表取締役

高好 理紗氏

https://www.eggtart.jp

事業内容/エッグタルトの製造・販売