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父、そして兄の思いも継ぐ4代目の挑戦

2022.02.09

芸術家肌でひらめき型の兄。対して、ビジネスが好きで調整型の弟、大上氏。結局、70余年の歴史を持つ大阪の和紙卸会社の4代目を継ぐことになったのは弟、大上氏の方だった。

兄は早くから「事業は継がず自分の好きな道を歩む」と宣言していたことから、周囲は後継ぎとして大上氏に期待をかけた。大上氏もその空気を察し、大手印刷会社に就職先が決まった時も「紙の後工程の勉強になる」と家業を継ぐ将来を見据えた。だが、ベンチャー企業に就職した兄が2年ほどで家業に戻ってくる。「厳しい状況が続いていた家業を立て直す責任を長男として感じていたのだと思う」とその心境を慮る。

兄は入社後、和紙を使った自社商品づくりに挑んだ。上質な和紙にとぼけたデザインをほどこしたマスキングテープ、祝儀袋、ポチ袋などを「ゆるディショナル」と称して企画・販売し、話題を集めた。だが、和紙の需要が下がり続けた時代に仕入先と取引先を守ることに腐心し、卸業を大切にしてきた父と兄とはめざす方向が違っていた。

いきいきと和紙の可能性を説き、やりたいものづくりに打ち込む姿を見て「いつか兄と一緒に家業を盛り立てたい」と思うようになっていく。しかし、兄はさらなるスキルアップを求めて海外留学を決意し、退職。印刷会社を退職した後、インドのコンサルティング会社で働いていた大上氏は、廃業を口にするようになった父を制し、自分が責任を持って継ぐことを伝えた。

大上氏は今、二つの事業展開に注力する。一つは、和紙以外の素材の取り扱いを増やすことだ。中でも不織布については抗ウイルス機能を加えた商品をメーカーと共同開発。コロナ禍の昨年は大きく売上げを伸ばした。もう一つは和紙の深掘りだ。「強く、美しく、長持ちする」和紙を、ネット通販業者にアピール。Web上で素材、形状などを選べるようにしオリジナル包装材を作れるサイトの構築も考えている。

専務取締役 大上 陽平氏

父からは今年7月にバトンを渡す、とすでに言い渡されている。「若い世代に任せ、新しい発想で挑んでいかないと存続はないと感じているのだと思う」と気持ちを代弁。「そんな気持ちになったのも、兄の挑戦を見ていたからでは」と推測する。今では、兄は「父にきつく当たりすぎた」と言い、父は「もう少し自由にやらせてあげても良かった」と言う。どちらの思いもよくわかるという大上氏がまるで予定調和のように後を継いだ。兄にいずれ海外にも出たいという話をしたところ、「どんどんやるべきや。応援するで」との言葉をもらった。兄の気持ちも背負った4代目の挑戦が始まろうとしている。

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

株式会社オオウエ

専務取締役

大上 陽平氏

https://washi-oue.com

事業内容/和紙の卸・販売、和紙関連商品の企画・販売