ラジコン用エンジン開発85年の職人達が突き進むその先は 無人航空機業界へ挑む開発型企業【前編】

ものづくりを愛してやまない大阪産業創造館プランナー エグチがお送りする『ものづくり』マニアックコラム。
無人航空機業界へ挑む開発型企業(前編)
今回お話をお伺いしたのは
小川精機株式会社
営業部 販促係 宮田 和雅さん(右)
営業部 営業課課長 吉田 昌史さん(左)
みなさんこんにちは。大阪産業創造館のマニアックプランナー、エグチです。
ようこそ、私のこだわりコラムにお越しくださいましたね。それではみなさんお待ちかね、ホビーに関係するメーカー第2弾。
小川精機株式会社にトツゲキ訪問!!
小川精機さん、何の企業かご存知ですか?そりゃもうエンジンですよ!模型用のエンジン屋さんです。
みなさんエンジン好きですか!?好きですよね!エンジン嫌いな人なんかいない。水平対向エンジン、V型エンジン、直列エンジンに星型エンジン。エンジンと聞くだけで血沸き肉躍るなぁ……!
僕のスロットルは全開のまま、革靴からスキール音を立てながら東住吉区の本社に足を踏み入れました。
さまざまなエンジンがあるなかでも、小川精機さんが特化しているのは模型(ラジコン)用の本格的なエンジン、排気量にして15cc~150ccという精密極まりない小型エンジンなんです。
創業者である小川重夫氏が自宅で(え、自宅で!?)1936年に最初の模型用蒸気エンジンを製造したことがきっかけで、それ以来さまざまなエンジンを製造されています。
ちょっと待ってください「1970年には模型用ロータリーエンジンの量産化に成功」ってありますけど、これは本当にあのロータリーエンジンなんですか?すでにエグチはよだれがでております……。
「ロータリーエンジンは現在生産はしておりません。エグチさんがおっしゃっているように注目度が非常に高いので、今後企画限定品として発売する可能性はあります」と宮田さん。
なるほど、通常ラインナップではなく「限・定・品」。マニアの心の内を見透かされているようだ。買います。もう、販売されたらすぐ買います。はい。
ちょっと脱線してしまいました。話をエンジン全般に戻しましょうか。創業して早々エンジンを生産されているんですが、この頃はどういったものに載せるエンジンだったんでしょうか。模型の車?飛行機?
吉田さん「最初の頃に生産していたのは『フリーフライト』という飛行機向けのエンジンで、飛ばしたらそのまま飛んでいくタイプの模型飛行機です。その後に無線で操縦するラジコンに載せるようになりました。今は作っていませんが、プロポ(リモコン側)も製造していたんですよ」。

プロポ!前回訪問した三和電子機器さん が脳裏によぎります……。
ところで、さっきから気になってるんですが、このエンジンは何ですか。
吸気部分に何か機械がついている。この形はもしかして、ルーツブロワー?
漢のロマンが具現化した装置、そして声に出して言いたい日本語!「スーパーチャージャー」ではないですか!

これぞ漢のロマンです……!
吉田さん「その通り。珍しいスーパーチャージャー付エンジンです。ラジコンのF3Aという競技用でアクロバット飛行をする飛行機用なんです。ラジコン飛行機の世界大会があって、このエンジンで2年連続世界チャンピオンを獲得しています。趣味とはいっても皆さん人生をかけて真剣に参加されているので、エンジン作りも極めて真剣に作り上げているんですよ。飛行機自体も相当の大きさになるので、中には専用の車で運んで来られる方も多いです。そういう方たちがお客様になっていただけるおかげで、会社としてはやっていけると感謝しています」。
専用の車だって!?ラジコン飛行機を輸送するためのクルマ!?なんてカッコいいライフスタイルなんだ。まさに私の理想の人生像。
宮田さん「飛行機の競技も毎年傾向があって、このエンジンで勝利した年はパワー(馬力)が必要な時でした。それまでは2サイクルだったんですけどね。競技内容等が変わりトルクフルな4サイクル(※)になったんです」。
※4サイクルとか2サイクルってのは、あれです。エンジンの燃料を燃焼する方式(タイプ)の違いで、最近の車のエンジンはすべて4サイクル。2サイクルは昔のスクーターなんかがそうです。実際のプロペラ機も4サイクルエンジンなので、本物に近い音がユーザーに人気なのだそう。この4サイクルエンジンの市場を作ったのも小川精機。実は4サイクルエンジンも、当時は模型用なんて他の誰も作っておらず、社内でひっそりと開発を続けていた方がいたおかげで、なんとか製品化にこぎつけられたそう。エンジンの先駆者や、すごすぎる。
お二人が言うには、飛行機のラジコンであっても日本では「道楽」とか「遊び」という認識が強いそう。しかし世界大会はFAI(国際航空連盟)という本物の航空機のアクロバットスポーツを統括する団体が行っていたり、ラジコンであっても「航空機のスポーツ」と捉えられているとのこと。
やはり日本は自動車競技やラジコン競技も遊びと思われているんです。
く…くやしい……くやしいです!!!
そんな熱い僕の想いは置いておくとして、小川精機さんのエンジンは海外にも販売されているのか聞いてみた。
すると、なんとマーケットの70%は海外とのこと。
日本の市場は小さく、国内にラジコン関係のメーカーは沢山あるのにその使用先はほとんど海外。やはり日本では気軽に飛行機は飛ばせないし、クルマのラジコンでもエンジン付きのものを走らせていると危ないと思われるそう。昔は藤井寺球場や八尾空港でも飛行機を飛ばしていたとか。難しい時代になったもんだなあ……。
では、海外への輸出が伸びている要因ってなんなんでしょうか。
「精度的や品質的に日本のラジコンは、非常にレベルが高いんです。そのせいかな。海外と違うには、やはり日本メーカーの『探求心』じゃないんでしょうか。勝つまでやる、というものづくりの精神だと思っています。レースで勝つためのものは全社あげてギリギリの所を攻める。そんな探求心が活路を見出しているんです」。
価格でも量でもなく、技術でお客様を勝ち取る。猛烈にカッコいいな。
>>>ラジコン用エンジン開発85年の職人達が突き進むその先は 無人航空機業界へ挑む開発型企業【後編】に続く
(取材・文/大阪産業創造館ものづくり支援チーム プランナー 江口幸太)
大阪産業創造館ものづくり支援チーム プランナー 江口幸太
東京都出身。3代続く江戸っ子。クルマが大好きで二級整備士資格を持つ機械マニアなプランナー。 愛してやまない製造業の支援を担当する。ものづくりの観点から大阪のホビーやクルマに関するコラムを執筆中。「漢のロマン」を追い求め、日々大阪を奔走する。