新ブランドで堺刃物の復権めざす
古墳時代に起源を持つ堺の打刃物(うちはもの)業。
現在、プロ用和包丁の大半は堺で生産されており、伝統の技術は今も脈々と継承されている。
1912年に創業した福井は、地域の鍛冶職人と研ぎ職人を束ね、自社で柄付けした和包丁を主にOEMで納入してきた。だが和包丁が以前ほど使われなくなり、職人の数も減少の一途をたどるばかり。
堺の打刃物業をもう一度元気づけられないか。先代と福井氏がそんな思いをくすぶらせていた2016年春、営業を担当していた丸山氏から「包丁の研ぎ職人になりたいので退職したい」との申し出があった。
「包丁を内製化できないかと考えていたこともあり渡りに船だった」と福井氏。「修業に出ている間も給料を出すからうちの職人として戻ってきてほしい」と丸山氏を説き伏せた。「その日が100年続いてきた会社のターニングポイントだった」と福井氏は振り返る。
丸山氏を修業に出す一方で、販路構築に動き出した。「うちは創業来、堺の刃物組合で常に要職を任されてきたこともあり同業者と競合しない市場で勝負したかった」。
JETROなどに相談したところ「欧州はどうか」とのアドバイスが返ってきた。和食が世界文化遺産に認定され和包丁への注目度も上がっていた。
さっそくドイツの展示会に出向き、その足でパリ、ロンドンの包丁専門店を訪ねたところ想像以上の反応があり、受注も獲得できた。
工房は2019年春に完成。修行を終えた丸山氏が戻り、さらに販路を広げていく必要に迫られた。
「ぼくらは後発組でブランド力もない。見た目や切れ味で差をつけるのも難しい」。そこで着目したのがパッケージだ。営業担当の市川氏が探し当てたパッケージ業者から「まずはコンセプトを。それを表現するものがパッケージだ」と指摘を受けた。
ミーティングを重ねる中で「和包丁にモノづくりの魂を込める」というコンセプトが出来上がり、「HADO(刃道)というブランド名が決まった。
白い箱に和包丁の絵が描かれたパッケージはそれだけで目を引く。
2021年4月からは「HADO」のインスタグラムを開設し、コンセプトに込めた思いを毎日のように発信したところ海外から続々と注文が入るようになった。現在は半年以上の納品待ちが続く人気だ。
他の産地に比べ、分業体制が根付いてきた堺は大量生産に対応できない点が課題だ。「職人を増やすだけでなく機械の導入も図りながら、より多くの受注に応えられるようにしていきたい」と福井氏。
堺の打刃物復権に向けた本格的な挑戦が始まろうとしている。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)