商品開発/新事業

ネットランキングで知名度アップ じり貧状況から脱出

2012.12.10

kansendou

生チョコ好きにはたまらないと思う。老舗和菓子屋の甘泉堂(かんせんどう)が5年前に売り出した『生チョコ大福』だ。新鮮な生クリームを使用した生チョコを白あんで包み、さらに羽二重餅(はぶたえもち)で包みあげた三重層。口に入れた瞬間にとろける食感を出すため、4日もかけて手づくりする。

 2010年、この生チョコ大福が、グルメサイトが主催したお取り寄せ大賞和菓子部門で銅賞を受賞し、ネットでの売上げが跳ね上がった。今では店舗とネットでの主力商品に成長している。2012年には「お取り寄せ大賞2012」の和菓子部門で銀賞も受賞している。

 実は、このヒットの裏には危機的状況からの再起を賭けた挑戦があった。5年前、じり貧が続く和菓子業界の状況に引きずられるように同社の業績も低迷し、卸販売に至っては10分の1まで売上が激減。「会社はもう倒産寸前の火の車状態だった」と岸谷社長は振り返る。しかし静観しているわけにはいかない。「どないかせなあかん」と藁をもすがる思いで立ち上げたのがネット通販サイトだ。

 見よう見まねでサイトを作ってみたものの、「最初はびっくりするほど誰も見に来なかった」と息子の辰也氏が語るように、月間アクセス数は何と2~3件。ところがある作詞家が生チョコ大福を食べて気に入ったのがきっかけで4年前にテレビで紹介され、翌日にネットで大量注文が入った。

 「やり方次第ではネットで売れる」と気づいた辰也氏は独学で写真加工技術やウェブサイトの作成技術を学び、商品の魅せ方やレイアウトの改良を地道に重ねた。その結果、徐々に売れるようになり、前述の受賞でブレークしたのだ。

 「意外だったのは、個人よりも法人のお客様の購入が多い点ですね」と辰也氏。さらにネットで生チョコ大福の人気が出たことで、リアル店舗への集客も増加。地元客以外の近畿各地域から訪れる客が増えるなど商圏が広がった。それに伴い、店頭販売は毎年数パーセントではあるが回復基調にあるという。

 とはいえ、「ネットで利益を大きく上げるつもりはない」と気を引き締める。あくまでネットは情報発信とブランディングのツールであり、リアル店舗への集客が最大の目的なのだ。ネットの活用で「火の車状態」から抜け出した今、来年は店舗を改装して生産能力を高めるという。次のヒット商品の開発もめざし、百貨店などの催事にも力を入れる予定だ。ネットとリアルの融合で活力を吹き返した老舗和菓子屋の奮闘に今後も期待したい。

kan2

▲会社の危機を救った生チョコ大福。リピーターも多く、毎年バレンタインで購入する人も多いとか。

kan3のコピー

▲「一度機械で作ってみたが、不評だったので完全手づくりに即戻した」と岸谷社長。人肌でとろける食感を出すためには努力を惜しまない。

kan5
▲商品の撮影から写真の加工、レイアウトまですべて自前。「いかに美味しく魅せるか」を追求し、売上げが伴うように。

kansendou_p

▲代表取締役社長 岸谷 正純氏(右)製造・通販担当 岸谷 辰也氏(左)

甘泉堂

http://wagashi.shop8.makeshop.jp/

創業/1950年 従業員数/3名
事業概要/創業60余年の和菓子屋。店内の喫茶スペースで買い物帰りにひと息つける。焼き菓子や生チョコ大福などを店舗とネットで販売する。